第4話 イケメン高校生と髪の伸びた日本人形(4)
「東堂!! 東堂、開けろ!!」
修学旅行2日目の朝、執事である東堂が待機していた部屋の前で、伊織はノックをしながら叫んだ。
寝起きでまだ目ちゃんと目の開いていない東堂がドアチェーンをしたまま、少しだけ開いたドアの隙間から覗くと、伊織が興奮気味に立っている。
「坊ちゃん、どうなさいました? 昨晩はよく眠れましたか?」
東堂が同じホテルに部屋を借りて待機していることは、他の生徒や先生たちには恥ずかしいからと内密にと言っていたくせに、こんな朝から大きな声で叫ばれても困るのだが……
そんなことはすっかり忘れてしまっているようで、チェーンがかかってるというのに、無理やりドアを開けて入ろうとしてくる伊織。
なんの連絡もなかったため、てっきり例の現象が起きずに眠れたのかと思って安心していた東堂。
実は、ベッドに一夜を共にしたとある女性が寝ているのだ。
その女性にほどかれた長い髪を手櫛で梳きながら、なんでもないふりをして、東堂は後ろ足で女性の真っ赤なハイヒールをドアの死角に寄せる。
「東堂、何してるんだ! どうして俺を入れてくれないんだ! さっさとこれを外せ!」
「坊ちゃんが無理やり開けようとするから、外せないんですよ。一度手を放していただけませんかね?」
「あぁ、そういうことか……」
パタリとドアを閉めて、先ほど死角によせたハイヒールを手に取り、東堂はまだベッドで眠っているそれはそれは美しい女性を無理やりクローゼットの中に一緒に押し込もうとする。
「ちょっと! 一体何!?」
「静かに! 伊織様が来てるんです」
「伊織が!?」
流石に起きた女性は一糸纏わぬ姿のまま、慌てて自らクローゼットの中に隠れた。
伊織に見られるわけにはいかない、事情があるからだ。
東堂は女性がクローゼットの扉が閉まったのを確認すると、すぐに伊織が待つ入り口のドアを開けた。
「……どうぞ」
「なんだ、随分遅かったな————」
部屋に入ると、なんだか覚えのある香水の匂いがした気がして、伊織は眉をひそめる。
「申し訳ございません、外すのに手間取ってしまいまして……それで、どうなさったのです? 何かありましたか?」
「あぁ、そうだ! 今すぐ調べて欲しいことがあるんだ!!」
「調べて欲しいこと?」
「同じクラスの……吉沢美桜が、何者なのかを————」
* * *
「美桜ちゃん? どうしたの?」
「なんでも……ないよ」
朝食のバイキングで、隣に座っている親友のさっちんこと、
沙知には美桜が大好きなカレーを大盛りよそってきたわりには、終始ビクビクしているし、なんだか顔色も悪いように見える。
「本当に? 何かあるなら言ってよ? 昨日も真っ青な顔して部屋に戻って来たでしょ?」
沙知は天使のような優しさで、美桜の頭をなでなでしながらそう言って、周りにいた他の女子たちも、まるで小さい子供をあやすようにみんなで美桜を励ました。
美桜はクラスで一番小さいせいか、女子たちからはまるで子供のように可愛がられている。
そんな美桜が、先ほどから気を揉んでいるのは、昨夜、自動販売機の前で出会った男からの視線だ。
(こっち見んな!! 気持ち悪い!)
じーっとこちらを見る視線……
一度、話しかけられそうになり、無視して華麗にかわしたが、それでもあの呪われた王子からの刺すような視線が気になって仕方がない。
久しぶりに呪われている人間を見てしまったため、思わず口に出してしまったのがいけなかったのだと、今更後悔してももう遅かった。
「ねぇ! 伊織様がこっち見てない?」
「ええ!? うそ!?」
伊織が見てるのは美桜なのだが、ほかの女子たちより小さいせいか、美桜の周りにいた女子たちが、自分の方を見てると勘違いをし始める。
伊織はそれがわかっているのか、いないのか、やっとこちらの方を見た美桜に向かって手をふって微笑むが、ほかの女子たちが黄色い声を上げるだけだった。
クラスで一番美人の沙知も、どうやら伊織のファンのようで、一緒になって顔を赤くしている。
(さっちん、目を覚まして……!! あの男、呪われてるから!!)
流石に、いくら親友でも自分は呪いが見える体質だなんて言えなくて、美桜は伊織から視線をそらすと、お皿いっぱいによそってきたカレーを頬張った。
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