第2話 イケメン高校生と髪の伸びた日本人形(2)
————数週間前、席替えがあった。
2年になってから何度か席替えをしたが、美桜はいつも前の方の席で、伊織は後ろの席が多く、今回初めて美桜が一番後ろの席で、その右斜め前が伊織の席だ。
背の低い美桜は、背の高い伊織の頭が邪魔で、黒板の一部が見えない。
(無駄に身長がでかいせいで、邪魔だわ……! 迷惑!!)
角度を変えてなんとか板書をノートに書き写していたが、突然視界が良くなった。
伊織が、自分の腕を枕にして、授業中……それも1限目から居眠りを始めたのだ。
(まぁ……学年1位様は学校での授業なんてどうでもいいのね?)
顔や家柄だけではなく、頭までいい伊織。
女子生徒たちからは王子と呼ばれているし、男子の友達も多い。
できるだけ男子と関わりたくない美桜は、この日初めて伊織が寝ている姿を見た。
授業が終わるチャイムがなるまで、ずっと眠っていて、次の授業が始まると、また眠って……
伊織がこんなに授業中に寝ているなんて、美桜は知らなかった。
(一体学校に何しにきてるの?)
そして教師は誰一人、伊織が授業中に寝ていても何も言わなかった。
学園を経営している一族の御曹司だからだろう。
下手に注意をして、機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。
午前中の授業も、午後からの授業もほとんど寝ている。
起きてるのは移動教室の時か、体育の時間くらいだった。
しかもそれが毎日続くものだから、美桜は段々腹が立ってくる。
真面目に授業を受けても、学年1位には到底及ばない自分の成績が情けない。
目標である女子大に合格するために、毎日毎日勉強しているのに、伊織との差は全然埋まらないのだ。
1度も話したことがない伊織を勝手に目の敵にして、美桜は心の中でいつも悪態をついていた。
背が高いからか、それとも単にムカつくからか、美桜は視界から伊織が消えればどんなに心穏やかにいられるだろうと思っていた。
「美桜ちゃん! 自由行動どこに行きたい?」
「えーと……そうだなぁ、やっぱり京都だし、清水寺……とか?」
数日後に迫った修学旅行の計画を同じグループの女子と練っていると、不意に男子たちの不穏な会話が聞こえてくる。
「なぁ、どこのグループの部屋に突撃かける?」
「突撃? 何言ってんだお前」
「修学旅行だぞ!? 女子の部屋にお邪魔しないで、いったい何をするって言うんだ!」
「いや、お前が何をするつもりだよ!」
「そんなの決まってるだろー?」
(まったく……これだから男なんて大っ嫌いなのよ!)
美桜はいつも心の中で悪態をつく。
子供の頃に受けた傷のせいで、男性恐怖症になった美桜は、どうしても男の人と話す時はどもってしまう分、そうやって自分を保ってきていた。
中学では女子校で過ごしやすかったが、祖母の計らいで共学のこの学園に入れられてからは、本当に苦痛だった。
できるだけ男子とは関わらないように過ごしてきたのに、まさか修学旅行先の京都で、その大嫌いな男子に目をつけられるなんて、思ってもいなかった。
* * *
京都での1日目が終わり、美桜が泊まっていたホテルの部屋に男子たちが本当に突撃してきた。
見回りの教師たちの目を盗んで、深夜に突然始まったトランプ大会。
男子たちのお目当は、美桜をいつも助けてくれる親友で、クラスで一番の美人のさっちんと遊びたいというものだった。
美桜は耐えきれずに、部屋を抜け出して、廊下の突き当たりを曲がったところにある自動販売機を目指して歩いていた。
自動販売機の前に椅子があり、休憩スペースになっているのだ。
(このまま先生たちにチクってもいいけど、それじゃあ、さっちんも怒られちゃうしな……)
さっちんは人がよくて、断れない性格だから、美桜は自分が逃げる方を選んだ。
静かな廊下のカーペットの上を歩き、自動販売機の青白い光が見え始めたころ、美桜の耳に不審な音が聞こえてくる。
床を這うような、ズズズっという音。
そして、
シィィー……シィィー………
歯の隙間から長く空気を出し続けているような音。
自動販売機の電気の音とは違う、別の音がする。
さらに、苦しそうな人の声。
「うっ……くっ…………」
美桜は角を曲がり、休憩スペースをそっと覗き見た。
(何……!? これ————!?)
自動販売機前にある長椅子に座り、苦しそうに下を向いている人の体に、真っ黒で長いものが巻きついて、締め付けている。
(蛇……?)
黒い影のような大蛇が、胴体に巻きつき、それより少し小さい蛇が、腕と足にも絡みついていた。
美桜はその異常な状況に、思わず声を出してしまう。
「呪われてる……」
状況に驚きすぎて、気がついていなかった。
その呪われている人物が、美桜の出した声に驚いて、顔を上げるまで、誰なのかわかっていなかった。
呪いを受けて、苦しむ男と視線がぶつかる。
「呪われてる…………? どういう……こと?」
蛇に呪われていたのは、学園の王子・月島伊織だった————
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