眠れぬ夜は呪いのせい
星来 香文子
第1章 イケメン高校生と髪の伸びた日本人形
第1話 イケメン高校生と髪の伸びた日本人形(1)
「
「い、嫌です……!!」
「頼む!! 俺には、お前が必要なんだ!! 一晩だけでも!!」
「嫌だってば!!」
その日、その場にいた誰もが二人のそんな会話に驚いた。
目撃者の話によると、男の方は180を超える長身な上、スタイルも良く、明るい茶髪のとんでもないイケメンの高校生だったという。
まるで王子様のようだった……なんていう話もあった。
彼の外見を賞賛する声は、女性たちからも男性たちからも多かった。
一方、そんなイケメン高校生が迫っていた相手は、背が低く、真っ黒な髪を腰まで伸ばした女の子だった。
制服が似ていたので、おそらく同じ学校の生徒のようだ。
女の子の方は、長い髪に隠れて顔はよく見えなかったらしいが、地味で大人しそうな雰囲気。
肌の色が白く、髪が伸びた後の呪いの日本人形みたいだったなんて声もあった。
そんな高校生二人が、たくさんの人が行き交う道のど真ん中で受け取り方によっては、とてもふしだらな話をしているものだから、中には勝手に写真や動画を撮るような人もいた。
こんな時代だからこそ、その動画は瞬く間に拡散する。
もちろん顔にはモザイク加工されていたが、高校生のうちから女子にお金を払ってでも……なんて、最低だというコメントが多く寄せられた。
「これって、うちの学校の生徒じゃない?」
「まさか、ちがうでしょ?」
「でもこの身長とこの体格……
「まさかぁ……!! あの伊織様がそんなことするわけないでしょ? それに、伊織様にあんなこと言われて断る人間なんていないわよ!」
「そうよ、むしろ私たちが伊織様にお金を払ってでも一緒に寝たいわ!!」
私立
(誰よ……動画なんて撮ったやつ! もう最悪……穴があったら入りたい)
そして、朝のホームルームが始まる直前にやってきた、その話題のイケメン高校生の方は自分が話題になっていることなんてつゆ知らず、いつも通り席に着くと、女子生徒たちの視線は一気に彼へと注がれる。
彼の斜め後ろの席から、その自信に満ちた姿を見ると、美桜は反吐が出そうだった。
(あんたのせいで……あんたのせいで……!!)
心の中で悪態をついても、聞こえるはずがないのに、ちらりと彼は美桜の方を見てにっこりと笑う。
この学園で一番背が高く、イケメンと呼ぶにふさわしい顔立ち。
さらに、この月島学園を運営する一族の御曹司である
(こんなことなら、言わなければよかった。うっかり口を滑らせた私がどうかしてたのよ……!!)
男性が苦手な美桜には、学園の王子様と呼ばれている月島伊織もただの気持ち悪い男でしかない。
こんなことなら、はじめから関わらなければよかった……と後悔してももう遅い。
美桜は、月島伊織に、この学園の王子様に目をつけられてしまった。
(呪われてるなんて、言わなきゃよかった……あんなヤツ、このまま、ずっと呪われていればいいのよ!!)
あの日、うっかり呪いのことを話してしまったせいで、吉沢美桜の平穏だった日常は、大きく崩れ去ってしまった。
月島伊織の体に巻き付いていた、黒い蛇を見てしまったせいで————
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