第21話 下剋上

 ――中央・砂漠エリア――


(なんだ……?)

(こいつ、どこを撃ってやがんだ!?)


 無々は勝手に動く武器の数々に戸惑っていた。

 操作をしても利かない。機械側が受け付けていないらしい。


 無々にできる事は移動のみだった。


「そこに誰かいんのかあ?」


 無駄に乱射しているわけではないだろう。

 目的を目指し、行動している動きだ。機械に言うのも変だが、迷いがない。


「こそこそとしているヤツを見つけて、しかも撃ってくれてるならやめさせる事もねえか。

 オートマチックとは、気が利くねえ」


 武器へ繋がる操作はいじらない。

 移動のみに全ての集中力を使う。


 乱射する弾丸の雨は、砂漠の高低差を削ろうとしている。

 だが削り切る前に、ターゲットは移動しているのだろう。


 弾丸の雨は、どんどん横にずれていく。


(じれってえな)

(どうせ高低差を利用して隠れてやがんだろ)

(なら、こっちから行ってやろうじゃねえか)


 無々が兵器を走らせる。

 武器は乱射を続け、本体が距離を詰めていく。


 高低差を飛び越えた。


 ゆるやかな坂の下方に着地した無々は、見つける。


「見つけたぜ」


「なるほど。オートに頼り切る馬鹿じゃないらしい」


 ミーティングで一目見て、闘志をまったく感じなかった少年だ。

 黒く塗り潰された瞳は工程を処理するのと同じ感覚で、このゲームをしていると思わせる。


 勝つ気がない。害を出さない敵に無々は無関心だったが。

 そうも言っていられない。


 兵器は休みを知らない。見つけたターゲットを正確に狙う。


「逃げなきゃ死ぬぞ?」


 少年は突っ込んでくる。

 リスクを考えていない思い切りの良さだ。


(確かに銃弾は避けられるかもしれねえが)


 身を低くして突っ込み、兵器の真下に潜り込んでしまえば、灯台下暗し。

 しかし兵器の足が鈍器となる事を、想定していなかったのか?


(あいつの運任せに乗るつもりもねえか)


 深読みし過ぎて一手が遅れるのも馬鹿らしい。

 ここは通常通りに、兵器の足で蹴り上げる。


 兵器が、後ろに足を振り上げる。つま先が少年の腹部を狙った。


 勢い良く振り子のように、速度を上げてくる蹴りを、少年は寝転がる事で避ける。


(ハッ! この状況下でそれに頼るかね!)

(もしかしたら咄嗟の判断で体が勝手に動いたのかもしれねえ)

(だが、度胸がある――)


 蹴りを避けた少年は無々の死角へ。

 武器も少年を観測できなくなり、攻撃をやめる。


 しかし、死角にいるからこそ限られる。

 足踏みをするだけで少年は踏み潰される。


(さすがに大人げねえか)

(明らかな弱者に、兵器ってのはなあ)

(これだとあいつも、足掻きようがねえもんな)


 とは言え、情けはない。

 ここで見逃すほど、ゲームをテキトーにプレイしていない。


 この兵器を見つけたというアドバンテージを、遠慮なく使う。


「「悪いな」」


 声が被る。


 ばッ、と後ろを見た無々は眼前に迫る少年の顔を見た。

 飲み込まれそうになる瞳に、動けない。


 コックピットへの侵入を許す。少年は上半身だけを乗り入れ、腕を伸ばす。

 ハンドルに指を掠らせるようにして触れ、すぐにコックピットから飛び降りた。


 あっという間の出来事に、頭が追いつかない。


 攻撃でもされていた方がマシだった。すぐに正気に戻れただろう。

 しかし、少年はなにもしていない。


 ただ運転席コックピットに入り込んだだけ。

 人の家の中を近道の通路として素通りするような軽さだった。


 文句も反応も遅れる。全てのアクションは、事後に回された。

 今回も。


「なッ、お前――」


 無々の声はそこで途切れる。

 彼の乗っている兵器が、大爆発を起こした。


 ―――

 ――

 ―


 黒焦げになった塊が砂漠の地に落下する。

 それを遠方から見たみんは、警戒しながら近づいた。


「ぼくも怪我すると思ったけど、案外、時間差があったね」

「まあ、嬉しい誤算だけどね」


 黒焦げの塊は動かない。気絶か、死亡か。

 処理はミサキの役目だろう。


「パーツ、パーツっと、これかな」


 みんは、無々が持つパーツを求め、服や体を調べる。

 気絶した事によって、収納されていたパーツが飛び出していた。


 体を移動させ、真下で潰されていたパーツを集める。


「!」

 そこで、がしっと、腕が掴まれる。


 黒焦げの中に、猛獣のような赤い瞳があった。

 みんは動けない。振りほどける程に、相手の力は弱いのに、だ。


「て、めえ、なにを、したん、だ……?」


「ぼくにネタバラシをする義務はない」


「そりゃあ、そうだ……」


 ハッ、と無々が笑う。


「ちくしょう……負けたか」

「弱肉強食の世界で、オレは負けた」

「明らかに弱いと思っていた、お前に負けた」

「お前みたいな、強者もいるのか……」

「力が、全てじゃ、ねえのか」


 力で叩き潰すのが強さ。

 策を弄するのは弱者が強者を近づくためのものだと思っていた。


 策で力が越えられた。

 認めざるを得ない。


「力が強くて、行動力に制限がなく隙がないやつは、強者だよ」

「強者は自分を強める」

「弱者は策を弄して相手を下げる」


 自分と同じステージへ、引き下げる。

 どれだけ差があろうとも、得意分野へ引き込めば、勝てない戦いはない。


「弱肉強食、ね」

「下剋上を忘れるな」

「お前ら強者は弱者を見ていない」

「だからこそ、足をすくわれる」


 みんは、掴まれた手を力強く横へ振る。

 掴まれた手は、あっさりと振りほどかれた。


「言えてらあ」

「弱い強者もいる。ハッ、いい発見をした」

「それだけでも、参加した意義がある」


 そして、無々は完全に意識を失くす。

 黒焦げになった白髪の少年は、光に包まれ、やがて霧散した。


 ―― ――


(策を弄されたくらいで負けるオレは、強者じゃねえ)

(オレは弱者だ。弱者を馬鹿にはできねえ)

(弱者じゃ、守りたいもんも守れねえ)


 浮かぶ顔はミサキだった。

 けれどすぐに、その顔はぼやけていく。


(思い出せねえ、けど)

(大切なヤツを守るためには、誰にも負けない強さがいる!)


(オレは、まだまだだ)

(オレは、今よりも強くならなくちゃいけねえ!)


 どうしてそう思ったのか、きっかけも過程も分からない。

 だが、強くならなくちゃいけないと思った。


 そして無々は、現実世界へ、帰還する。

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