第25話 勝利のための優先事項
もちろん、仲が良いわけがなかった。
見た目では仲が良さそうに見える――、そう見せているのだからそう見えていなければ困る、と声には出さないが、呟いたのはドリューだった。
仲良く見せているのは護衛対象のメイビーに安心感を与えるため――とも言えるが、しかしこれ以上続けていると、変に勘繰られてしまうかもしれない。
恩を売ることを計画に組み込んでいるが、しかし、やはりホークがいることでその計画の結果に、大きな支障をきたしてしまうことになる。それはドリューとしても困るし、メイビーに不安を抱かせてしまう原因にもなってしまう。
計画に支障が出るのに、なぜ二人で守るのか――と、
ドリューとホークがなにか、さらに、裏でなにか良くないことでも隠しているのではないかと、メイビーに考えさえてしまうことになる。
さっきの話に付け加えれば、仲良く見せている対象はメイビーではあるのだが、他にも、ホークにも見せつけている――、当事者に見せつけている、というのも変な感じではあるが、簡単に言えば、打ち解けていることをアピールしているだけだった。
もちろん、打ち解けてなどいない。
今でも、殺そう、という本質は息を潜めている――潜ませている。
油断させたところで、隙を見せたところで殺そうと、ドリューは考えていた。
メイビーに変な想像をさせてしまうことは、今後を考えて早めにやめさせるべきではあるが、ここで仲の良い関係を見せるのをやめれば、今度はホークに敵意ありと認識されてしまい、彼を殺すことが難しくなってしまう。
現時点で言えば、最優先はホークを殺すこと――。邪魔者をさっさと退場させることである。
だからメイビーにおかしな詮索をされる前に、ホークを殺さなければならない。最優先が決まったところで、第二の優先事項は、少しの間、諦めるしなかった。
メイビーを放っておき、放置することは彼女には悪いが、これは結果、彼女のためになる。
なので、ドリューは遠慮なく行動に移すことにした。
恐らくメイビーは、ドリューとホークのどちらかがいなくなったところで、勘づかれて殺された、と分かってしまったとしても、彼女はきっとなにも言わないだろう。
言ったとして、「そうなんだ」という程度のリアクションしかしないだろう。
お姫様としてそれはどうなのか、と突っ込みたいところだが、自分を利用している者のことを気にかける必要はない。
あのお姫様はこのレースに出るにあたって、もしかしたら元々かもしれないが、無駄を省いている――、いらないものは捨てているはずだ。
いるものはいる時に調達している、そんな性格な気がする。
だから、現在進行形で彼女にとって敵でしかないホークとドリューの二人がどうなろうと、なんとも思わない。
どちらかがどちらかに殺されたとしても、きっと気にしない。
殺人者が隣にいたところで、きっと気にしない。
彼女自身は、自分が敵側の求めている存在だと理解している。
メイビーが生きて優勝することが絶対条件、というドリューの目的を知っているからこそ、自分は殺されないということを分かっているからこその、余裕を持つことができる。
分かっているから――殺人者が隣にいても、大丈夫なのだろう。
そういう性格だから安心だろう、
と決めつけたドリューが、これからホークを殺そうと動いている。
ドリューは今、森の木が整理整頓されたようにきれいに、等間隔に生えている道を歩いていた。さっきまでは焚火を中心に、三人で円になるようにして座り、体を温めていた。
数十分とそこにいて暖を取ってから――メイビーが言ったのだ。
『これからのことも考えて食料を調達しておきたい。お前らがいるのなら、私一人分の食料では足りないだろう――。お前らの中には食料を持っている奴もいたようだが、悪いな、勝手に取って捨てておいた。まさか、一緒に行動を共にするとは思ってもみなかったからな――』
まったく悪びれもせずに言うメイビーに、文句の一つでも言おうと思ったが、だがこうして食料を調達しようと言ってくれているということは、心配はしてくれているらしい。
勝手についてくるなら勝手に生活しろ、と言われるよりは全然マシである。
つまり、三人で三人分の食料を捕獲しておこう――、というわけで、今は三人、別行動をしている最中である。
メイビーは海へ、ホークは山へ、ドリューは森へ、という役割分担だった。
幸いにもここは円盤島からの道を進み、分岐することなく辿り着いた第二の島・無人島であった。もちろん名前はあり【ガナナ島】と言うらしいが、円盤島のような特徴という特徴はなく、人工島であるのだが、誰も住んでいない、本当に無人島になってしまった島らしかった。
休息地点、またはいま行動しているように、食料やなにか、後々に必要になるかもしれない材料を入手するための島なのかもしれない。
先を急いでいるのならば、こんな島、すぐにスルーして先へと進むものだが、ドリューのような、必要としている人間にとっては必要な島である。
先を急ぐと言えば、これはレースなのだから、先にゴールした方が良いに決まっている――というか、一番にゴールしなければ優勝できないのだが……、だがドリュー達は先を急ごうとはしなかった。余裕、というわけではないのだが――、いや、必然的にこの状況ならば余裕を持ってしまうのは当たり前なのだが、恐らく、彼らよりも先に選手はいない。
一番、トップに立っているのが彼ら、ドリュー達であることを、本人達は自覚している。
根拠として挙げれば、中継カメラが二つ存在していて――、一つ、目視できないが、粒子型のカメラが選手達の周りに存在している。
常に監視しているというわけではなく、決められた時間になれば見る、という程度のもので、プライバシーはきちんと守られている。
そして二つ目、根拠として挙げる本題としてはこっちだが、目視できる手の平サイズの中継カメラが、現在一位の選手を報告してくれる――。
それが、さっきからずっと、一位の選手は自分達であった。
次の報告は一日後、という電子音を聞いたきり、
中継カメラは恐らくもう、彼らを映してはいない。
そんなわけで、一位ならば急ぐことはないと思い、こうして後々の事を考えて準備を整えている、というわけであった。
もちろん報告されて、すぐにどこかの誰かに抜かれてしまい、彼らは二位になり、見知らぬ誰かが一位になり――現在進行形で距離を離されている、という可能性もなくはないが、
そうだとしてもすぐに追いつけるという、これまた余裕があるのでのんびりとできている。
なんにせよ、一日後まではこの島でのんびりするつもりである。
見ている者からすればつまらな過ぎる退屈なレースであるが、知ったことではない。そういうエンタメショー的なことを望んでいるのならば、前々から言っておいてほしいものだ――。
そして個人に依頼でもしてほしいものだ。そうすれば遠慮なく、レースをかき回して邪魔をし、混乱させ、見る者を飽きさせない自信があるというのに。
まあ、もしも依頼されたところで、お姫様の護衛任務という依頼が被ってしまうので、結局、受けることはできないわけだが。
そんなことを考えながら、ドリューは山の方へ向かって行く。
山にはホークがいるはずである。今の自分みたいに、この別行動の隙に敵対組織を潰そうと考えていなければ、山の中にいるはずである。
ドリューはぺろりと舌を出して、唇を濡らした。事故でも真正面からの攻撃でも、なんでもいいが、ここでホークを殺しておくべきだ。
殺して、そして、なにもなかったかのように、お姫様と合流すればいい――、
それで、これから先の仕事も完璧である。
シナリオは出来上がっている。
そう――このまま問題なく、順調に進めば、の話だ。
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