第54話 登校中にて

 仮病を使って1日を傷心をある程度回復した僕は学校へと向かう。


「仮病というのは魔のささやきに似ているよね」


 1度成功したためか、心からもう1日、2日休もうよという心の声が聞こえてきたのを覚えている。


 その怠惰の心を打ち破ったのが朝晩の勤行と唱題。


 唱題していくうちにそういった休みたい心が霧散していったのを感じていた。


「けど、足が重いことには変わりがないんだよなぁ」


 頭に思い浮かべるのは先日に出した及川への条件。


 及川と姫神さんが付き合う条件として僕と黒城さんの編入を阻止するということ。


 結果はどうなったのだろうか?


 及川が勝ったのか、それとも学年主任に言いくるめられたのか。


 どちらにせよ、僕がとっさに言ったことでとんでもない大事に発展させてしまった自覚があった。


「朝から辛気臭い顔をしないでよ、時宮君」


 肩を落としていた僕だけど、その凛とした声で顔を上げる。


「ちゃんと朝に1時間の唱題を上げてきたの? 朝の唱題は金の題目というでしょう? だから絶対にあげなくちゃいけないの」


 いつもと全然変わらない佇まいに僕は安心すると同時に1つの疑問がわく。


 もしかしてまだ学年主任の話を聞いていないのかと。


「ねえ黒城さん。あの学年主任から何か聞いていない?」


「うん? 時宮君が怪我した件については他言無用ということを聞いているわ」


 まあ、そこは絶対知っているよね。


 けど、クラスを移る件はまだらしい。


「ねえ、時宮君。何かあったの? もしかしてあの妖怪から変なことでも囁かれた?」


 ただ、頭も勘も良い黒城さんは何かあると勘付いたらしい。


 僕に詰め寄ってくる。


 失敗したなと思う。


 僕としては根掘り葉掘り聞かれると精神的にも肉体的にもしんどい。


「まあ、詳しい話は及川と姫神さんが揃ってから言うよ」


 その方が手っ取り早いと思う。


 結果を知ってからの方が色々と話しやすいとも思うしね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る