第49話 救援
「おい! 何をしている!?」
その鋭い声と共に僕に対する攻撃が止む。
顔を上げて声のした方を見ると怒りの表情の及川と信じられなさそうに口を覆っている姫神さんと、無表情の黒城さん。
このまま倒れてても良かったけど、それは僕のプライドが許さない。
少しでも、3人に相応しい自分でありたいという願う僕の心が僅かな動きでも鋭い痛みに苛む僕の体を動かした。
「お、及川君」
「こ、これは」
狼狽している元取り巻き達をしり目に僕は壁に背を預けて一言。
「やあ、遅れることを伝えられなくて悪いね」
多分、これが僕の中でこの場で格好良いと思えるセリフ。
……うん、ごめん。
だから黒城さん、怖いからますます目を細めないで。
「時宮君、大丈夫?」
優しい姫神さんは僕のそばにまで駆け寄って僕の状態を確かめてくれる。
「ん、大丈夫。骨は折れてない」
滅茶苦茶痛いけどね。
骨折とか洒落ならない事態は回避できたと思う。
「とりあえず救急車を呼んでおいたわ」
スマホ片手に黒城さんがそう告げる。
学校に相談もせず即救急車か。
相変わらず学校の面子とかを一切気にしないね。
「お前ら……」
と、ここで及川の纏う空気が尋常でないことに気付く。
これ、放置してたら後々面倒くさいことになりそうな気がする。
どうしようかな。
実際、少し動かすのも痛いしもし僕の予感が外れたら単に僕が痛いだけで終わる。
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。
困ったときはご本尊様に決めてもらうのが今の僕の心情。
胸中唱題した結果、保険をうっておくことに決める。
「いつつ……及川君。ストップストップ」
僕は及川と元取り巻き達の間に割り込む形で立つ。
「及川君。その握りしめた拳は何かな?」
「っ」
無意識だったのだろうか。
反射的に及川が右手の力を緩める。
「行くわよ」
「私はあまりやってないわよ」
及川の怒気が緩まった瞬間、彼らは脱兎のごとく逃げ出した。
彼らをしり目に僕は及川をなだめる。
「何をしようとしているのか僕は知らないけど、暴力は駄目だよ。なぐったら面倒なことになる」
確か校則では喧嘩両成敗だった。
「そうね。時宮君の言う通り。及川君、貴方はこの場所からすぐに離れて」
意外にも黒城さんが僕のサポートに回る。
「黒城さん。けど……」
「及川君。貴方は人気者だしサッカー部のキャプテンでもある。時宮君の付き添いは姫神さんが。事情説明は私がやるから貴方は傍観者でありなさい」
どうやら黒城さんは及川を部外者にしたいようだ。
一体何故そんなことをするのかな?
もしかして元取り巻き達をコントロールするために及川の安全を保障したのかな?
あー、体が痛い。
これ以上考えるのはしんどい。
僕は足の力が抜け、その場にへたり込む。
救急車が来るまで横になってしまおうかと思った瞬間、僕の頭に何か柔らかい者に包まれた。
「姫神さん……」
どうやら姫神さんが膝枕をしているらしい。
「ごめんなさい、時宮君。私のせいで」
本来なら凄い嬉しいのに姫神さんが泣いているから居心地が悪い。
何か、今の姫神さんに対して何か良い言葉を掛けられないかな?
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経
胸中唱題しても出てこなかったので僕は黙ってハンカチを出して姫神さんの涙を拭きとった。
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