第48話 普通はそうだよね

 僕は鎧塚君や秋塚さんといった中立に位置しているクラスメイトを中心に説得している。


 本当なら反対派の及川の元取り巻きを攻めれば良いのだけど、僕じゃ無理。


 余計に拗らせてしまう未来しか見えない。


 僕は及川のようなカリスマも、黒城さんの様な強さも姫神さんのような優しさも持ち合わせていない。


 だけど、僕には学年一位を取った賢さがある。


 人間は考える葦である。


 そこまで自惚れるつもりはないけど、僕は僕に出来ることを精一杯やるだけだ。


 次は誰にしようかな。


 かつてのクラスメイトを思い出しながら次に説得するクラスメイトの算段を立てていたら。


「おい、時宮。少しツラ貸せよ」


 僕に有無を言わせずある者が襟辺りを掴んで引きずっていった。


「後にしてくれない? 僕はこれから昼を一緒に食べに行くんだけど」


「……」


「せめて連絡させて」


「……」


 はいはい、徹底無視かい。


 ごめん、姫神さん、黒城さんそして及川。


 僕のことは気にせず先に食べといて。


 と、僕は心の中で思った。




 どれくらい歩いただろうか。


 体育館の裏だからおおよそ5分以内かな。


 と、僕は呑気なことを考える。


「おい、連れてきたぞ」


「いて」


 着いたと同時に僕は突き出されるように押されたので尻もちをつく。


 僕を取り囲んでいるのは−−4人か。


「誰かと思えば君たちか。安藤君、飯島君、浮山そんそして遠藤さん」


 僕をここまで連れ出したのは及川の元取り巻き達だった。


 南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。


 ここで震えるわけにはいかないよね。


 僕は胸中唱題をして勇気を振り絞る。


「何のよう?」


 僕の言葉に取り巻き達が怒りの表情を見せる。


「時宮、お前ワザとすっとぼけてんのか?」


 代表して安藤君が話し始める。


「おおかた、僕が君達のクラスに入ってかき乱していることかな?」


「分かってるじゃねえか」


「確認だよ。もし違ってたらお互い困るだろ?」


「……」


 沈黙は止めて欲しいな。


 まあ、良いか。


 想像になるけど、彼らの目的は僕の活動の妨害。


 僕の暗躍が功を奏したのか大分クラスの空気は改善されてきたらしい。


 姫神さんが涙ぐみながらそう報告してきたので間違いはないだろう。


 さて、ここらが潮時かな。


 後は姫神さんに任せよう。


 けど、最後まで姫神さんの役に立ちたいからダメ元で交渉しようか。


「それで、もしかして用件はもうチョッカイをかけるなということ? それは良いけど条件があるな。それは−−」


 ガンッ


 顔に鈍い衝撃が走るとともに目の前に火花が散る。


 今、安藤君は何をした?


 まさか、僕を殴ったのか?


「ちょ、ちょっと待っ−−」


 最後まで言い終わらない内に今度は腹にダメージ。


 何も入っていないのに吐きそうになる。


「全部……全部お前のせいだ!!」


 地面に頬をこすり付けながら見上げた先には安藤君の顔。


 それは憤怒に染まった怒りの表情。


「時宮。お前のせいで俺達は全部失った。最近まで俺達には及川君と姫神さんがいた。なのに今は2人に嫌われた挙げ句、学校に居場所もない。お前が全て奪い取った」


 ドゴッ!


 安藤君とは違う方向から衝撃が走る。


「俺達の憧れの姫神さんを彼女にした。及川君なら諦めもつくのに何故時宮、お前が」


 ドカッ! ドカッ!


 この鋭い痛みは棒状の何かだな。


「私達の味方の先生も担任を外しちゃって……二学期から別の学校に飛ばされるからずっと泣いて引きこもっているのよ!」


 バンッ! バンッ!


「これだけ私達が苦しんでいるのに、元凶の貴方は楽しそうで……ふざけないでよ!!」


 南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。


 痛い。


 痛い。


 とりあえず急所は守らないと。


 取り返しのつかない深刻な後遺症が残ると困る。


 南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。


 僕は一刻も早くこの嵐が過ぎ去ることを願って胸中唱題を繰り返していた。


 

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