第47話 元クラスメイトを説得④

「……」


「あれ? 秋塚さんどうかした?」


 僕的には快諾すると思っていたのに予想に外れて難しい顔をしたのでそう尋ねる。


「いや……時宮君、あんたはそれで良いのかい?」


「どういう意味?」


「あんたの目論見通りにクラスが以前のように戻った。あたし等からすればめでたしめでたしだけど、時宮君は本当に納得がいくのかい?」


「……」


 思い起こされるのは濡れ衣を着せられて地獄の思いをした日々のこと。


 正直、記憶から消し去りたいぐらい辛いのだけど、ふとした拍子に当時の状況がフラッシュバックする。


 南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。


 自らの胸を掴み。


 叫んで暴れたくなる衝動を抑える意味で僕は胸中唱題を行う。


「んー、今のところは笑い話にできないよね」


 右手を離した僕は何でもないとみせるように手を振って。


「まあ、止まない雨を無いと言うように、何時かは許せる日が来るんじゃない?」


 切にその日が来ることを願う。


 それまでは、創価学会の信心を続けていこうかな。


「悪い、変なことを聞いたね」


 顔に出ていたのだろうか。


 やってしまったとばかりに秋塚さんが頭を下げる。


「ごめん、頭を下げないで、誤解されたら滅茶苦茶困る」


 秋塚さんの気持ちは嬉しいけど、何も知らない第三者が見たら一方的に謝罪させている構図。


 秋塚さんのファンクラブから敵視されるのは嫌なので僕も頭を下げて緩和を試みた。


「ハハハ、相変わらず時宮君は自分よりも周りを優先させるんだね」


「いやいや、自分のことしか考えてないよ。周りからどう見られるのかを常に考えているだけだし」


 謙遜でもなくそう思う。


 本当の献身というのは姫神さんのような存在だよ。


 あの損得を越えた言動をするのは本物ゆえに、偽物の僕からすれば眩しく映る。


「良い機会だからここで言っておこうかね」


 と、秋塚さんは姿勢を正して。


「あの時、時宮君の味方をしてやれなくて本当にごめん。あたし、本当にわかってたんだ、時宮がそんなカンニングなんてするわけがないと。でも、面倒ごとになるから黙っていたのは本当に酷かったと思う」


 先よりも深々と頭を下げる秋塚さん。


「……」


 周囲の配慮を考えるなら僕も頭を下げるべきだけど、これだけは無理だ。


 傍観者であったことを謝られても僕は受け入れられない。


 あの時受けた苦痛を頭一つ下げたとしても許せる者かと思う、けど。


 南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経


「うん、秋塚さんの気持ちは分かるよ。謝罪を受け入れたから頭を上げて」


 ここは許さなければ先に進めない。


 少なくとも、秋塚さんは先に進んでほしいと思う。


 どうせ高校を卒業すれば関わることなんてほぼ無くなるぐらいの仲だからね。


 僕の知らないところで勝手に幸せになれば良いと思う。


「はあー、良かった良かった」


 何か肩の荷が下りたような秋塚さんの表情。


「こう見えてあたしね、結構後悔していたんだよ。気にしすぎて部活での調子が出なくなったぐらい」


「間接的に誰かのせいにしないでよ。調子が出なくなったのは秋塚さん自身の問題だ」


「アハハ、その通りだね」


 と、笑う秋塚さんの笑顔はとても晴れやかだった。

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