第45話 元クラスメイトを説得②
「……」
「いや、鎧塚君。沈黙は止めて、何か反応を示して」
スルーされるのが地味に痛い。
僕がそう突っ込みを入れるも鎧塚君は微動だにしない。
多分これは何かを考えているんだな。
邪魔をしては悪いので僕も口を閉ざす。
「……クラスのほぼ全員が及川のことを嫌っているけど、その度合いには濃淡がある」
しばらく後に鎧塚君が語り始める。
「最も嫌っているのは及川君の元取り巻き達。あれは手が付けられない」
「うん、僕もそう思う」
彼らにしてみれば裏切られた気分なんだろう。
なまじ信じていた分、その反動による憎しみは深い。
「逆に、僕のように及川君にはあまり恨みはないけど、とりあえずクラスの雰囲気がそうだから及川君を邪険にしているクラスメイトもいる」
「うんうん、そうだね」
正直、鎧塚君は及川君と関係性が薄いのだから憎めと言われても困るだろう。
「時宮君の気持ちは分かった。表立っては動けないけど及川君のことを悪く言うのはよそう」
「ありがとう」
僕は本心からそう述べる。
僕は鎧塚君の状況を壊してまで及川の肩を持てとは言わない。
出来る範囲でやってくれればそれで良い。
もう用は済んだので僕は立ち上がろうとすると。
「時宮悟君」
フルネームで僕を呼んだので立ち上がる動作を止める。
「重ねて聞くけど、時宮君は本当に及川君を何とかしたいの?」
「まあ、そのつもりだけど」
「時宮君がこのクラスから出て行く羽目になったのは及川君が関係しているし、何より姫神さんは今でも及川君のことが好きだよ」
「……」
否定しない、出来ない。
「このまま現状を放置しておくのが時宮君にとって良い状況だと考えたことはない? 」
「さあ、どうだろう?」
もちろん考えたことはありますよ。
けど、それを口に出したらお終いなんだよね。
「仮定として、及川君の地位が以前と同じように回復する。そうなった場合、一番喜ぶのは姫神さんだと思うよ。彼女が別の男のことを考えて嬉しがっているのは相当辛いんじゃない?」
相当どころではないよ。
現在でさえ、何もかも滅茶苦茶にしてやりたくて、必死でその衝動を抑えているんだよ。
南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経。
胸中唱題で自分を保つ。
「鎧塚君。君から見て僕はピエロのようだと思う」
「うん」
迷いなく頷くか、鎧塚君。
「ピエロのように見えるのは悲しいけど鎧塚君。及川君とは友人であり、姫神さんも友人であり恋人。友人のために身を粉にするのは尊いことだと思わないかい?」
僕はそう言い捨て、返事を聞かずに立ち上がる。
「はあ、辛い辛い」
分かっていたけど、人から指摘されると響くね。
僕は心臓辺りに手を置き、グッと握りしめた。
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