第44話 元クラスメイトを説得①
「はあ……」
溜息を吐くと幸せが逃げるという。
嘘か本当かは知らないけど、何となくマイナスになる言動は極力控えたいというのが僕の本音。
いや、これは溜息じゃない。
肩の力を抜くための呼吸だと思い込もう。
そうすれば少しは楽になる……かな?
閑話休題
そんな変なことを考えながら僕は懐かしきA組に入った。
始業時間まで相当時間があるので中に人はあまりいない。
まあ、僕が知っている彼ならいつも一番に来ていたからいてもおかしくない。
僕の予想は的中--教室の窓際奥にいた。
中肉中背の凡庸な彼を際立たせる唯一のものは黒縁の眼鏡。
真面目一辺倒で不器用なためよくクラスメイトから雑用を押し付けられてしまう損な性格。
だから一時期は眼鏡君とあだ名をつけられていた時期もあった。
「相変わらず本が好きだねえ、鍵塚君」
僕がそう声を掛けると鍵塚雄二は視線を上げて僕を見据える。
「時宮君か」
無感情にそれだけを呟く彼。
「……」
「とりあえず無言は止めよう鎧塚君。反応に困る」
僕は苦笑した後に読んでいる本を指さして。
「わざわざ学校にまでライトノベルを持ってくるなよ。またからかわれたり奪われたりするよ」
「いや、でも面白いから早く続きを読みたいし」
「のめり込むのはほどほどにした方が良いよ。それで周りからハブられたら結構しんどい」
「……」
沈黙は肯定と捉えようか。
「それで、僕に話しかけたのは何の用?」
「話が早くて助かるよ」
僕は鎧塚の前の席にある椅子に座って向きあう。
「最近さあ、A組の様子がおかしくない?」
「……」
「具体的には及川と他のクラスメイト。なんか冷戦状態だって聞いているんだけど、合っているかな?」
最近、及川がやらかした罪の糾弾の後遺症が尾を引いている状態らしい。
「そうなった責任の一端は僕にあるからね。何とかしたいなぁと思っているのだけど」
「何故?」
鎧塚は首を傾げる。
「時宮は昔から及川とその取り巻きに敵意を抱いていた。だから今の状況は願った通りじゃないのか?」
「あれ? ばれてた?」
僕はおどけるように笑う。
「上手いこと隠してきたんだけどなぁ」
クラスのボスに喧嘩を売る真似などしたところで僕の立場が悪くなるだけだし。
「まあ、それはもう終わったから良いとして。今の状態はね、僕の彼女が望んでいないんだよ」
「姫神さんか。確かに彼女もずっと苦しそうだ」
「そゆこと。彼氏としては何とかしたいと思うのは当然じゃない?」
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