第27話 仮面の告白

「時宮君、お忙しいところ申し訳ありません」


「いや、僕のことは気にしなくて良いよ」


 次の日、僕は姫神さんから呼び出されていた。


「けど、突然メールが送られてきて、さらに次の日に会えませんかなんて、普通は迷惑かと思いますけど」


 恐縮する姫神さんには悪いけど、この展開は予想できていた。


 いや、正確には教えられていたとなるべきか。


 実は昨日の夜、黒城さんからラインが来て『近いうちに姫神さんからメールが来るわ』と告げられていたから。


 これが赤の他人なら二、三言返信して真意を確かめたのだけど、黒城さん相手だとそうしようとは思わない。


 ああ、また何かやるつもりなんだなぁとある種の諦観しか沸かないからだった。


「気にしなくて良いのに、姫神さんからだったら学校を休んででも会いに行くよ」


 大仰な仕草でそうのまたってみる。


 これがイタリア人なら親の死に目をすっぽかしてでも、数多くの男を決闘してでも会いに来るよというところなんだけどね。


 及川ならともかく、僕がそんなことを言っても滑稽なだけだしね。


「くす、時宮君は面白い人ですね」


「おいおい、僕が冗談すら言わない堅物だと思われていたのかな?」


 指を唇に当てて上品に笑う姫神さん。


 名は体を表すというけど、姫神さんの前世は本当に姫君だったのではと思ってしまう。


 でも、そうなると及川は勇者で黒城さんは敵国の女王、そして僕はやられ役の幹部Aということになってしまうので想像を打ち消す。


「それで、何の用かな?」


 話を本題に戻そう。


 なぜ姫神さんが僕を呼び出したのか知りたい。


 生憎と黒城さんはそこまで報せてくれなかった。


 報せてくれないということは、聞いても教えてくれないだろう。


 その厳しさを僕はよく知っている。


「実は、ね。時宮君……私は一度時宮君をお断りしたんですよね」


「ああ」


 姫神さんの指摘に僕は頷く。


 振られた時のあの苦い感覚――一生忘れることはないだろうね。


「それで、ね。本当に酷いことを言うようだけど。あれはなし……時宮君の告白を受け取っても……良いかな?」


 上目遣いに僕を見上げる姫神さん。


 予想していなかった――いや、予想はしていたが実際に来ると狼狽えてしまう。


 何故、今になって姫神さんが僕の告白を受け入れるというのか、理由はもちろん黒城さんが何かを言ったからだ。


 つまりこの告白は姫神さんの本心ではなく、どちらかというと黒城さんの策略の結果によると考えて良い。


 理性的に考えれば受けるのは危険だ。


 場合によっては僕だけで済まず、姫神さんも大きな傷を負ってしまう。


 本当に姫神さんのことを大事に想うのなら断るべきだ。


 理性的で善なる僕の心がそう訴えているのだけど。


「良いよ、姫神さん。これで僕と君は恋人だ」


 本能と、これまで姫神さんを想っている情念が僕の口を支配し、そう言葉にしてしまった。


「うん、ありがとう。そしてごめんね」


 姫神さんから出てくる謝罪の言葉。


「謝らないで欲しいな」


 せっかく告白に成功したのに、どうしてこんな気持ちになっているんだろうね?


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