第26話 意外な共通点
「あれほど言ったのに、まだ黒城さんは分かってなかったみたいですね」
「あらあら、私は忠実に貴女の要求を再現したのにどうして咎められるの?」
「結果的に及川君を苦しめているからです。黒城さんならどうにかできたはずでしょう?」
「フフフ、姫神さんは私に過度な期待をし過ぎているようね」
「そうですね、お互いの意思疎通が出来なかったことによる今回の悲劇――黒城さんとはもう一度じっくりと話し合う必要がありそうですね」
「じっくりって……先日に三時間以上話し込んだでしょう。まだあるのかしら?」
「まだ三時間です。もしかして怖気づきました?」
「いいえ、全然。私もまだ話し足りないと思っていたところよ」
「なら問題はありませんね」
「フフフ」
「アハハ」
互いに笑顔を浮かべながら交わされる会話。
その剣呑さに僕はもちろんのこと及川も喉をごくりと鳴らす。
「まあ、とにかく。Aクラスは袋小路にはまってしまい、どうしようもない状態だ」
この空気に耐えられなくなったのか及川は若干声を上ずらせながらそう切り出す。
「クラスの時間を使って大々的に行えばこうなる結果は目に見えていたと思うんだけどね」
あんなつるし上げに近い状況で、素直に認められるのは小学生までだよ。
余計な知識を付けた高校生に通じるわけがない。
「今からでも遅くない。僕を嵌めた関係者だけを集めて密室で謝罪してくれれば僕はそれで良いんだよ。ね、黒城さん?」
僕は『肯定しろ』という意味を込めた視線を送る。
聡い黒城さんなら僕のメッセージを受け取ってくれるだろうと思う。
だがしかし、一つ頷いた黒城さんの言葉は僕の期待を見事に裏切った。
「駄目ね、彼らは人一人の人生を滅茶苦茶にしかけたもの。その報いとして彼らの人生に消えない汚点を残すことが唯一の贖罪なのよ」
「やっぱりそうだよね、黒城さん。やはり罪には罰が必要だと俺も思う」
我が意を得たとばかりに及川が嬉しそうに頷く。
「ちょ、ちょっと待って。僕はそこまで望んでいない」
恐ろしいところで意見が一致した二人に僕は思わずストップをかける。
「黒城さん、当事者である僕の意見も汲み取ってほしい」
「及川君。これ以上追及したら他のクラスメイトが便乗して最悪クラス崩壊――そうなったら原因を作った及川君は停学で済まないんだよ?」
僕が黒城さんを、姫神さんは及川を慌てた様子で宥める。
まあまあ、と。
しばらくの間、鏡写しのように宥める者と宥められる者の姿があった。
「けれど、時宮君が望む、なあなあで終わらせるのは癪に障るのよねぇ」
黒城さんは憂える深窓の令嬢のごとくため息を零す。
「やはり黒城さんもそう思うか」
それに勢い良く頷く及川。
なんというか、黒城さんと及川の意外な共通点を発見してしまったよ。
どちらも信念があるのに加え――敵に容赦しないんだね。
「黒城さん。やはり本気で話し合いましょう」
姫神さんが極上の笑顔を浮かべてそう切り出す。
「明日はちょうどお休み。だから私の家に泊まりに来てください」
姫神さんの口から出てきたのは宿泊のお誘い。
「あら、それは姫神さんの家族に悪いわ。それに私も家族にどう説明すれば」
黒城さんの疑問ももっともだろう。
もし僕が家族なら突然のお泊りに面食らう――息子でなく娘なら同性であってもなおさら。
「大丈夫です。私が誠心誠意家族に説明しますので、黒城さんも誠心誠意説明してください」
と、姫神さんは力業でねじ伏せることを提案してきた。
……姫神さんってこんな強引な性格だったっけ?
僕の脳内にはいつもにこにこして及川の傍にいる姿しか想像できない。
「あら、そうなの。じゃあお言葉に甘えましょうかしら」
僕が現実逃避している間にも話が進んでいく。
黒城さんは特に考えるそぶりもなく姫神さんの無茶な提案を受け入れたことから、本気の拒否ではなかったのだろう。
「それじゃあ、今日の放課後に待ち合わせしましょうか」
「ええ、お泊りとなると色々入用だしね」
と、女子二人だけでどんどん決まっていく。
そして、取り残された僕と及川は顔を見合わせて。
「……とりあえず、カンニング疑惑については保留にしておこうか」
何となくだけど、二人の話し合いが決まらないことにはどうしようもないことだと思うし。
「ん……ああ」
及川も目の前の急展開についていけなくなったのだろう。
僕の先送り提案に対し、特に反対することもなく頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます