第3話 嫉妬と怒りと羨望と
時間が経つに連れて残りのクラスメイトも入ってくる。
その中の女子生徒の一人に僕の目は止まった。
姫神柚木。
僕の片思いの子。
ふわふわのゆるふわウェーブの髪に優しさを表現したかのようなまなざし。
朗らかに笑う彼女は常に周りを笑顔にさせて暖かな空気を作る。
姫神さんは覚えているのかな。
受験の時、この高校の場所が分からず途方に暮れていた僕に声をかけて一緒に行ってくれた日のことを。
「じゃあ、受験を頑張ろうね、時宮君」
そう言って笑顔で手を振り、別々の教室に別れた日。
僕は今でも鮮明に思い出せるよ。
けど、それは僕の話であって姫川さんはそれに限らない。
現に今も、ざっとクラスを見回した程度で一緒に来た女子グループの輪に溶け込んでいった。
「やっぱり覚えていないよな」
姫神さんと話したのはあれ一回。
覚えてもらっている方がおかしいか。
と、僕が切なさを感じていると。
「おおー、セーフか?」
とある快活な男子生徒が入ってきた。
彼の名前は及川裕也。
サッカー部のキャプテン、高身長で甘いルックス、成績も常に上位に位置している。
そんな及川だから男子にも女子にも受けが良く、ファンクラブまで出来ている。
そしてクラスのリーダー的存在であり、クラス委員長よりも担任の先生よりも及川の言葉に皆が従う程人望があった。
そんな超有名人の及川だが僕は知っている。
及川が僕にした仕打ちのことを。
及川とは一年別のクラスだったが、そのクラスのテスト結果では及川が常に一位だった。
だが、二年になって初めての中間テストの結果は僕の次の二位。
しかし、僕がありもしないカンニングが疑われた結果、繰り上げ的に一位となった。
その証拠に、僕のカンニングを訴えたのは及川の取り巻き生徒であり、そのクラス担任も一年は及川の担任だった。
決定的な証拠はないが、こうまで状況証拠が揃えば疑いたくもなる。
それに加えて僕が絶対に許せないこと--それは。
「あ、あの。大丈夫だよ、裕也君」
僕の憧れの姫神さんが及川と話すときだけ言葉尻が弾み、顔が上気していることだ。
お前も姫神さんの好意に気づいているだろうが。
だから早く結論を出してくれよ。
「おう、ありがとうな、教えてくれて」
好きな人が、そんな顔を僕以外に向けているのがどれほど辛いのか分かっているのか?
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経--」
あまりの理不尽さに僕は胸中で題目を唱える。
そうしないと二人が仲良く話し合っている光景に耐えられそうにないから。
憎い、憎い、全てが憎い。
祈っていると、心が落ち着くというが、僕の場合は逆にこみ上げてくる感情を抑えるのに苦労してしまう。
まだ時間はある。
僕は席を立って早足で教室から離れる。
見たくない、見て堪るか。
僕がねつ造で将来の道が途切れたにも拘らず、クラスメイトもあの二人もどうでも良いと言わんばかりに談笑している様子など見たくなかった。
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