――vsストロベリー・ショック

第29話 再会・復讐の右翼

 フェアの身柄がなぜ、ストロベリー・ショックに渡っているのかの説明は、意外と思われるかもしれないが、短い説明で終わる内容のものでしかない。


 元々、イコール・マグナムからターゲットの身柄が渡される予定だった――だが、寸前になってイコール・マグナムはストロベリー・ショックではなく、良識那由多へ連絡をした。


 ターゲットの妖精に情でも移ったのか、それとも話すことのない彼の人格は、最初からそういう正義感で動くものなのか……。それに、寸前ではなく随分と前から彼が策を考えていたのかもしれないが、この世にいない今、それを確かめる術はもうない。


 裏切り行為なのかも、今となっては――今更だが、本当に裏切り行為だったのか怪しいものだった。だが既に彼が殺されてしまっている以上、考える必要もない。


 夜明奈心によってボロボロのバラバラにされている途中で、彼が必死に隠していたフェアを見つけ出し、攫っていった鳥人――、は考えなくてもいいことだった。


 攫って行った後の行動は当然、イコール・マグナムに指示されていた予定、それをなぞるだけのものだった。バード・トッピングはターゲットをストロベリー・ショックへ渡しに、しかし真面目にストロベリー・ショックや那由多がいる建物……、

 世界神殿に行くことはせずに、連絡をして、建物の外でストロベリー・ショックと合流する。


 ターゲットの受け渡し後、

 ストロベリー・ショックはこれからの行動を簡単に説明した。


「偽りの情報に踊らされているログイン・ラインは、嘘の居場所に向かっているだろう……もしも、那由多がイコールと同じように裏切るという行為に出たとしても――、

 ログイン・ラインを偽りの情報の元へ行かせなければ合流はされない」


「となると――ログイン・ラインの向かう場所までの道に、割り込んでしまえばいい、と」


「そういうことになる――私はこれからそう動くが、バード、お前はどうするんだ?」


「なによ、仕事を任せてるくせに、どうするか、とか聞くわけ? 残業でもしろっての?」


「私が任せた仕事はここら辺の情報を全て遮断しろ、という簡単な、五分程度で終わる仕事のみだが? 那由多に色々とばれたら面倒だ……、

 利用価値はまだまだあるんだ、あまり、手放したくはない」


「ああ、そう……その仕事を終わらせてから、ねえ。

 できればリベンジというか、恨みを晴らすべくというか、

 あの小娘を叩き潰したいところだけどねえ……」


「お前のそれは残業ではなく個人的な用になると思うが……まあ、いい。

 精々、恨みやらなんやらは晴らしておいた方がいいだろう……遊んでいてもいいが、一つ、私が呼んだらすぐにでも来い。それだけ守ってくれれば、なにをしていたって文句は言わんよ」


 りょーかい、と緊張の欠片もないバード・トッピングは、言って空に飛び上がる。

 ぎこちない飛び方だった……すると、ちらりと見える体の傷――、先ほどの敗北の時の怪我は、やはり体の中に、わりと深刻なダメージを残してしまっているらしい。


 あの敗北は予想外ではあったが、しかし現時点で、バード・トッピングが生きているという事実は、那由多やログイン・ラインにとっては、イレギュラーな存在になっているだろう。

 だとすれば、あの時の敗北も、責める程のことでもないかもしれない。


 敗北について褒めるべきでもなかったが――、ともかく、まだまだバード・トッピングにはやってもらうことがある。それまで、死んでもらっては困るのだが、本人は恨みを晴らすなどと言っており、順調に死亡をフラグを立てていっているが――。

 だがさすがに二回目である。あのバード・トッピングとは言え、同じ失敗はしないだろう。


 ……しない、とは思うが。


「心配だ……」


 だが、バード・トッピングに付っきり、というわけにもいかない。

 これからログイン・ラインの力を最大限に引き出そうとしているストロベリー・ショックは、気にしながらも作戦を優先させた。


 その心配は彼女の安否ではなく、

 作戦に支障が出るかもしれないという、ジンらしい考え方だったが。


 ―― ――


「だいじょうぶ? ……かなみ」

「大丈夫? 夏理……」


 親友の顔を見つけて、互いに、同時にそう言い合った。

 敗北したという事実を伝えることが嫌で、小さな声になってしまっていたが、だが相手も自分と同じ状況だということに、おかしな話だが、安心してしまっていた。


 ほっとした後、ずきんと痛む傷――、肩の傷口を手で押さえて、小走りで先に相手の元に寄って行ったのは、香奈美だった。

 彼女のパートナーであるジンは、プレイスタイルと呼ばれている蝶々の大群である――。

 能力は、小規模の範囲内であるが、香奈美が望んだ現象が起こるというもの……、

 その力を使い、香奈美はここまで来る前に、事前に大きな怪我を治療していた。


 本当ならば、現在、手で押さえているこの肩の傷口も治すつもりだったのだが、短い時間で連発したのか、プレイスタイルの元々小規模な範囲が、今となっては、さらに小さくなってしまっていた。同時に効果も、付け足せば、プレイスタイル達の機嫌も悪くなっている。


 もしものことを考えて今は能力を温存しているからこそ、肩の傷くらいはがまんしよう、という決意の結果、今の香奈美の体勢だった。

 

 そんな香奈美よりも怪我が酷いのは夏理だ――。

 香奈美のような治療する、という能力を持っていない彼女は、香奈美よりも、比べるまでもなく酷い怪我だということが見て分かった。

 とは言え、遠目では分からなかった――、

 こうして近くに来たことで初めて分かったことである。


「――っ」

 と、夏理の青黒くなっている体を見て、香奈美は言葉に詰まる。


 治療したいのは山々だが、力の温存云々は関係なく、今の夏理を治療するすることは難しい。

 規模が大きく、しかも大量に怪我が分散されている――、現状のプレイスタイルの力で言えば、治せたとしても一か所や二か所……、夏理の怪我を全て治すことはできない。


 一つや二つ治したところで、十を越える数の怪我をしているのならば、あまり変わらないだろう、とは思うが、しかし本人からすれば一つや二つでも、あるのとないのとでは変わるだろう。


「かな、み……ごめん、まけ、ちゃった……」


 壁に体を寄せて、壁を支えにして歩いてきていた夏理は、香奈美の体に体重を預けるようにして、前に倒れてきた。それを慌てて受け止め、支える香奈美――。


 今にも気絶してしまいそうな程のダメージを抱えている夏理を見てしまえば、治せないとか、そんな細かいことを気にしている場合ではないということを、痛く意識させられる。


「夏理、しっかり! 大丈夫! わたしが治してあげ――」


 香奈美がそう言った時、風が、二人の真上から太い柱が落ちてくるかのような規模で、降ってきた。固体ではないので、降ってきたところで怪我をすることはない。リアクションとしては手を顔の前にかざして、真上を確認するくらいである。


 それだけで充分だった。夏理はダメージによって行動できなかったが、香奈美はしっかりと真上にいる、その風の発生源、原因――、風の主である人物を見ていた。


 鳥人――バード・トッピング。


 敗北後、ダメージを残したままの状況で、この出会いは最悪だった。


 まともに回避することもできない今のコンディションで、なぜか敵意を持って風で攻撃してきている相手と、自分達が戦えるとは思えない。

 恐らく、相手は自分達がジンを専門に倒している【ジン絶滅推進部隊】ということを知っているのだろう――恨みをばら撒く仕事だと分かっているからこそ、相手が襲ってくる理由がそれだと、納得してしまう。


 鳥人……確か、奈心が倒しに行ったはずではなかったか……? 

 しかし、あの奈心が見逃すとは思えないし、失敗するとは思えない――。

 だとすればまったく違う、奈心のターゲットではない鳥人なのかもと思ったが、


「ねえ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど――夜明奈心、どこにいるか、知ってる?」


 と、バード・トッピングはゆっくりと下降し、地面に着地――、二人の前に着地した。


「なんっ、で……奈心のことを知って……、」


「あらあ、そこに引っ掛かる? なんでって、まあネットでもなんでも、ジン専用の情報網でも使えば簡単に分かるのよねえ――で、繰り返すけど、どこにいるか知ってる?」


「……なんの用なんですか?」


 一歩下がりながら、香奈美が聞いた。


 奈心を知っている鳥人――ということは、奈心が殺すことに失敗した鳥人という線が可能性としては高い。もしも、奈心の方もこの鳥人を探しているというのならば、居場所を教えることはそのまま奈心のためになる――が、居場所を教えたことで奈心が隙を突かれてしまうということを考えると、鳥人に教えるというのは、あまりいい行動ではない。


 それにまず、そもそも、奈心の居場所など知らなかったが。


「――用、ね。あ、そうそう、少し借りたものを返す用があってね――利子もつけて」


 頼りたくなるような、年上のお姉さんのような笑顔を見せてくる鳥人、バード・トッピング。

 見た目だけで判断すれば、良い人のように見えるが、

 しかし注意してほしいのが、見た目だけを判断材料にすれば――の話である。


 二人にとって最も信用できる材料は、見た目ではないもの。


 第六感で感じ取ることができる。

 その人の隠せない本心、本性である。


 見た目で欺かれない二人は、最初から、危険度など理解していた。


 バード・トッピングの――恐ろしさを。

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