――vsバード・トッピング
第10話 頼りの電話
「――あーもう、うざってえ! 何回も何回もかかってくんじゃねえよこの電話! 最新機種だかなんだか知らねえが、変えたばっかでろくに使い方が分かんねえだよ!
……ちっ。
マナーモードのボタンくらい、目印をつけておけよ、役に立たない会社だな、おい!」
「……変えた時にいらねえとか言って説明書を破り捨てたのはどこの誰だったのか、自分でよく考えてみればいいんじゃないかな……。自分の能力を過信し過ぎだよ、
僕は知ってたよ……絶対に使い方が分からなくなるってね」
「分かってたんならなんでその時に言ってくれなかったんだ……?
お前、まさかとは思うが面白がってあえてなにも言わなかったとでも言うつもりか?」
「まあ、僕のキャラ的にそういうことはしそうだけどね――でも、さすがにスマホくらいは使い方を覚えて貰わないと困るんでね……当然、言ったよ? 説明書を読みなって。
ガラケーとは違うんだから、スマホとは初対面なんだから、きちんと理解してあげなって……言ったのに、これだよ。ほんと、困ったものだよね。
困ったと言えば、君の態度もそうかな――、
さっきから危険信号を出してる君の親友くんの電話、取ってあげないの?」
「ああ……最近、会社からの迷惑メールが多いと思ったら、これ、蒼からなのか……」
寝癖のせいで跳ねている、天然の金髪を片手でかきながら、レンズが薄い黒色のサングラスを取り、テーブルに置き――、
それとは入れ替わりに自分のスマホを手に取った天戯――、
困った時はいつでも相談しろとは言ったものの、日曜日は天戯だって休みたい日であるし、実際、休みの日である。
しかし、親友である蒼からの電話……、内容の九割は相談事である――。
それも日常生活での相談ではなく、
大体がジンに関する相談事だということも分かっている。
ここで電話を取ることなく無視してもいい場面だったが、それでも天戯は電話に出た。
放ってはおけなかった――さすがに。
あの蒼が電話をしてきている――、つまりは、とにかくヤバい状況が、おまけのように付いて回っていて、人の命が助かるか落ちるか、左右してしまっている出来事の可能性が高い……。
それを、放っておくことはできなかった。
うんざりしながらも覚悟を決めた天戯を迎えた言葉は――こうだ。
『よかった、やっと繋がったぜ登張!
――えーと、いきなりで悪いんだけど、上空から、干渉できない程の高い上空からの監視を逃れるためにはどうすればいい?
ちなみにこっちから攻撃できないけど、あっちからは攻撃ができるっていう、負けゲー確定の状況なんだけど……、たぶんこれ、負けてイベント続行タイプじゃないと思うから、すぐにアドバイスが欲しいっす!』
天戯は、なにも言えずに口を開けて、ぽかんとする――。
なにがきても動じない覚悟をしていたつもりだったのだが、さすがに天戯でもこれには言葉を失った。だが、現実逃避は必要なかった――。
そんなことをせずとも、思考回路は一旦クリアに、冷静さは戻っていた。
蒼の呼吸は荒かった……全速力で走っている最中――、
つまり、追いかけられているということか。
上空から監視されながら、追加で追いかけられている――、
一体、お前はなにをしたんだと言いたくなるが、さすがに逃亡中の親友に、そんな言い合いの喧嘩になってしまうような言葉はかけなかった。
策――、
とにかく、今の蒼の窮地を救うための策を考えなければ……。
「鳥……のジン――そこらへんだろうな。
上空と言えば、それしかないだろうし」
「鳥人――だよ」
すると、そう言ったのは天戯の前でのん気にカップラーメンの麺をすすっている少年だった。
幼い顔立ち――、天戯と比べれば見た目的におとなしい黒髪の、首にヘッドフォンを装備している少年だ。彼は天戯が苦戦しているのと同じ機種のスマホをテーブルの上に置いていた――、
慣れた手つきで、指でタッチして、フリックしながら、
「鳥人――、どうやらこのジン、【世界神殿】の幹部らしいよ。
ほら、教えたじゃないの――ストロベリー・ショック……今、東京、いや日本かな……を支配しているジンの中でも高い地位に就いているジンってことさ。
まあ、日本以外の場所も同じようにジンに支配され、同じようにそこを支配するジンがいることを考えれば、別にこいつがトップというわけでもないだろうけど――、
トップは魔王だって、ジン達、本人が言っていたわけだしね」
「――で、オレと蒼の話はきちんと聞いてやがったんだろ?
お前の電話内容をオレが聞くのは嫌がるくせに、人のは積極的に聞くんだな……。
まあ、んなことは今、どうでもいい。
んで、
「丸投げかい? ――少しは考えたらどうかな……。
君だって、まったく策がないってわけでもないんだろう?」
「上空まで飛んで殴ればいい」
「オーケー、分かった。
……君の親友を易々と殺させるわけにもいかないしね、どうにかしてあげよう」
「……あいつ、また命を狙われてるのか?」
「状況的に狙われてるだろうね――さて、どうするか……」
苦しみながら出てきた策は、逃げている最中の蒼でも考え付きそうなものだった。
もう実際にやってしまって、手が尽きてしまったからこそ、こうして電話をかけてきているのかもしれないが……、さておき、とりあえずは伝えることにした。
「上空から監視されているなら、監視されない、視界に入らない場所に行けばいいんじゃないかな……、例えば、建物の中とか。
とにかく良い策が思いつくまでは、建物を目隠しに使ってもらっていた方が、こちらとしても気分は楽だからね」
「わざわざ行き止まりに向かって行ってる気もするけどな――」
「その時はその時だ。
窓からの飛び降り、壁をぶち壊し――それくらいできるだろ?」
「できねえよ――まあ……だが、なにもしないよりはマシか」
そう納得し、天戯は阿楠の策を蒼に伝える――と、
『建物に入ることには賛成だけど――そこから先! 壁を壊すとかできねえよ!
俺はお前とは違うんだ、そんな滅茶苦茶なことをしたら自爆だろうが!
拳がぶっ壊れるっつうの!』
「建物に入ることは賛成なのか……。
てっきり、もうそれは試してるもんだと思っていたけどな……」
『追いかけられて数分もしない内に電話してるからな――、
スタートダッシュと同時に裏ワザに頼ってるようなもんだし』
「早いな、おい! もうちっと頑張ろうという気はねえのか!?」
『命懸けのこの状況でもうちょっと頑張ろうかな、なんてのん気な心構えがあると思うか!?
――あ、今、建物があった!
廃墟っぽいけど今はちょうどいいだろ――ここならあいつから見えねえわけだし!』
じゃあそこに入ってくれ、と天戯が答えようとした時だった――、
『蒼――上から攻撃、来てますよッ!』
と、遠くから聞こえているような声だったのは仕方ない――、電話の先、蒼の、恐らくは肩にでも乗っているのだろう……、フェアのナビゲートの声が、天戯にも聞こえてきたのだ。
同時――、蒼の叫び声と爆音が天戯の鼓膜を揺さぶった。
頭がぐわんぐわんと、平衡感覚を潰されたような感覚だった。
どうやら、蒼の間近で爆発が起こった……らしい。音だけで判断すればそうなるだろう。
「おいっ――、蒼、無事か!?」
自分の体の無事を確かめる前に、
まず蒼の安否を確かめるために、天戯は電話先に向かって叫ぶ。
鼓膜の状態を確認する前に叫んだので、今、もしも蒼からの返事があっても、聞き取れないかもしれないという可能性もあったが、なんとか、蒼の声は聞こえた。
無事だった――ということだ。
『あ――危ねえっ!?
あいつ、あいつの抜けた羽が落ちてきて、地面に刺さって、いきなり燃え上がったんですけど!? あれどう対処すればいいんだよっ!
ひらひら舞ってる羽がもう花びらみたいだから避けようがないんですが!
――どうしろっての、掃除機でも持って吸い込みながら逃げろとでも!?』
マシンガンのように打ち出される文句の数々と声の調子からして、致命的なダメージは負っていないようで安心した。思えば今までもそうだった――、
絶対絶命のピンチになっても、蒼という人間は、蒼という少年は、蒼というログイン・ラインは、あり得ないような状況からでも生き延びてきたのだ。
今までの繰り返しが今、起こっただけだった。
やはり――持っている。
蒼は、死なない人間なのだ。
「――叫んでる暇があったらさっさと建物の中に入れ!
最悪の状況になったら、お前、躊躇うことなく屋上からでも飛び降りろよ!」
『できるか! 二階三階ならまだしも、屋上は死ぬわ!』
「そういう心構えで行けってことだよ――さっさと入れバカ野郎! んで、報告だ!」
了解! と聞こえてくる蒼の声に、はあ、と溜め息を吐く天戯。
その隣では、阿楠が笑いながら、
「いやあ――必死そうで、大変そうだねえ……」
「てめえきちんと策を考えてんだろうなあ!?」
一気に不安になってきた――。
悔しいが、精神的支柱は、天戯にとっては阿楠なのだから。
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