第7話 ジン絶滅推進部隊

【ジン絶滅・推進部隊】――関東軍・第二部隊。

 それが、奈心と夏理と香奈美が所属している組織だった。


 部隊と言っているが、第二部隊の正規メンバーは、この三人……。

 最初からこのメンバーで、増えることも減ることもなく、変化なく今に至る。


 部隊と言うよりは、チームと言える――。

 ただ、正規メンバーは三人だが、彼女達の下……彼女達だけではなく、主な雑用、どの部隊にもボロ雑巾のように雑用を押しつけられるメンバーもいて、三人ではあるが、実際のところは三人だけではないという部隊でもある。


 番外メンバーの方は、入れ替わりが激しく、増えたり減ったりが頻繁に起こっているらしく、それに顔を隠しているので、奈心達は未だに彼らの顔を覚えることができていなかった。

 名前だって、コードネームだ――。

 毎回、初めて聞く名前で、まったく関わらせる気がないように思える。


 関わりたいと思ったことはなかったが。

 まあ、香奈美は積極的に話しかけており、しかし彼らはその対応に困っている様子だったが。


 奈心は彼らのことを捨て駒だと思っている。そう扱えと上から言われたのだから、そう扱っているだけで、恨まれることではない……と、思ってはいるが。


 ジンを良く思っていない――、

 ジンによって世界が支配されているこの状況をどうにかしたいと思っている人達が集まっているので、ジンを絶滅させるために犠牲になることに、文句はないはずだ。

 しかし奈心は『だったら番外メンバーで雑用をするのではなく、正規メンバーとして戦えよ』と、『命くらい懸けてみろ』と、まともな精神をしている人間にとっては酷な、高い理想を押し付けてしまっているが。


 口だけの奴はいらない。

 行動理由はなんでもいいが、実際に動ける奴が欲しい。


 躊躇なくジンを殺せる人材。

 夏理も香奈美も、奈心と理由は違うけど、

 だが、命を懸けて戦っているのだから。



 壁に設置されてある電話を取った奈心は、一つのボタンを押して、電話を耳に当てる。

 これで上司に繋がるはずなのだが……、

 しかしコール音が鳴るだけで、繋がる気配がまったくなかった。


「……ほんとに電話、きてたの……?」


「うん――きてたよ。じょうしさん、いそがしいんじゃないかな」


「どうかしらね……とても忙しいようには見えないけど――」


 それは、完全なイメージで、相手のことなどなに一つとして知らなかったが。

 ――すると、コール音が唐突に鳴り止み、


『やっと電話かけてくれたんだね奈心ちゃぁああああああああああんっっ! 

 遅いよ遅いよ、夏理ちゃんが伝えてくれていないのかもってハラハラドキドキして――』


 ぶちっ――と。


 そこで奈心は、不快だったので電話を思い切り、元にあった場所に叩きつけ、通話を切る。

 そしてそのまま去ろうとしたのだが、しかし、すぐに電話がやかましく鳴り響くので、去るのは諦め、再び電話を取った。


『まったくもう――切るなんて酷いじゃないか! 

 こっちはせっかくの仕事を持ってきてあげたというのにっ!』


「……そういうハイテンションなのはもういいので――、ちっ、早く用件をどうぞ」


『どうしたどうした!? 今日はイライラ日なのかい!? 

 だったら――ならそうと早くに言ってくれなきゃこっちも対応しきれないってばーっ!』


「私の場合はいつもイライラ日なのでその喋り方は封印してくれるとありがたいです」


『いつもイライラなのは健康に悪いよー? せっかくの白い肌、厚着をして保っている白くて綺麗な肌なのに、イライラしているとすぐに荒れて、岩場みたいになっちゃうよー!? 

 でも、蒸さないようにしないとね! 

 だから奈心ちゃんは今すぐにでも服を脱ぐべきだー!

 半裸で、町に突如と現れたジンを狩る正義のヒーローに、とかさ――なんつって! 

 でもやってみるべきじゃないのかい? 

 挑戦的な精神は捨てるべきじゃないと思うわけだがッ!』


「黙れ」


 おおふぅ――と、

 電話の相手から声が漏れたところで、奈心が本題に入る。


「一度、電話したということは、

 殺してもいい、悪事を働くジンが出た、ということですよね? 

 それか、危険分子を見つけた――とも言いますが」


『殺すとか、あんまり言わないでよ――女の子なんだからさ。

 うん、うんうん――まあ用件は分かっているよね……。

 それにしても毎日毎日、よくもまあ仕事が来るのを待っていられるよねー。

 奈心ちゃんなら、仕事に関係なく、ジンを殺しに行ってしまいそうだけど』


「ええ、行きたいですよ――でも、あなたが言ったんじゃないですか。無差別にジンを殺せば、同じように無差別に人間を殺すジンが増えてしまうって――。

 私と同じ思いをする子供が現れてしまうからって。

 確かに、繰り返すのはごめんですからね――だから、あなた達が殺してもいい、絶滅させてもいいジンを選び、私達に伝えているんでしょう?

 それを、私達は待っているんです――ずっと、待ちに待って」


『ふうん。まあ、そういう、多少の人間部分が残ってくれていて嬉しいよ。

 それを考えられなくなった時、君は終わりだと思うべきだね……。そういう思考回路が残っていれば、の話だけど。まだ理性を保っていられるのも彼のおかげかい? それとも、彼女?』


「……なんの話ですか?」


『まあいいや――で、いつも通りのオーダー。

 町で【ちょうじん】が暴れているらしい――。そのジンをどうにかしてほしいというのが、今回のお仕事……。じゃあ、対処の方法は任せるよ』


「……殺しても?」


『もちのろん』


 それから――、相手の方から、通話が切れた。


 つー、つー、と鳴る電話を受話器に戻し――そして。


「今日は、優しい殺戮でも目指してみようかな」


 まるで、赤ちゃんにかけるような声だった――加えて、優しい微笑だった。


 異常性は存在せず――、当たり前だけが今、この場には存在していた。

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