Episode1
第4話 朝のニュース
もしもカラスが鳴いていなかったら――自分は恐らく高校に遅刻していただろう。
まあ、どうでもいいか――。
そんな風に焦る様子なく、日野は体を起こした。
寝ぼけながらも制服に着替えて、寝癖を水で濡らして直す。
完全には直らずに、所々、茶髪が跳ねてしまっているが――まあこれくらいならば見られても恥ずかしくないだろうと思って、これ以上の努力をすることはなかった。
目を隠す前髪を鬱陶しく払いながら――、日野は階段を下りて一階に向かった。
リビングには三人分の朝食が既に作られてあった。
白飯に味噌汁に焼き魚――、そういえば昨日も同じメニューではなかったか? そう思ったがすぐに自分の勘違いだということに気づき、口に出すことはしなかった。
そもそも、日野は元からあまり喋らないし――それにじっくりと考えるタイプでもないので思ったことをすぐに口にしてしまう、ということもあまりないのだが。
「……おはよう」
決まった一日の始まりのあいさつをして、日野が椅子に座る。
そして箸を持って――、
「いただきます」
同じテーブルを利用している母親と父親は、日野から言われた「おはよう」の返事をする前に「いただきます」と言われてしまって、どっちに対応すればいいか分からず――、
最終的にタイミングを逃して、おろおろしてしまう結果になっていた。
だが結局、二人共が、
「……うん、おはよう」
そう言って食べ始めた。
なんだかぎこちない家族という印象を持つが、しかし、本人達にそんなことが分かるはずもなく、違和感に気づけないまま、時間が過ぎていく――そしてテレビのニュース。
特集されていた『情報』に、日野の視線が寄っていく。
「…………」
日野の箸が止まり――テレビ画面をじっと見つめる。
それに気づいた母親が、
「これ、昨日のやつだね。さっきも別のチャンネルで同じ特集してたけど、どうやら発見されてから一日で消えていたらしいよ――この宇宙船」
「宇宙船……」
「それにしても珍しいね、日野がなにかに興味を持つなんて――どうしたの?
まさか宇宙飛行士になりたいとか?」
にやにやと、からかうように言ってくる母親。
日野は視線を母親に戻して、感じ取った疑問をそのまま口にした。
「……宇宙船。どこにもあれが宇宙船だって書いてなかったのに――、
なにも言われてなかったのに――どうして宇宙船だって分かったの?」
少し難しそうな顔をして、母親が答える。
「――だって、見た目で分かるじゃない。宇宙船にしか見えないわよ、あんなの」
――そうだろうか。
確かに飛行機にもヘリコプターにも見えないけれど、しかしだからと言ってロケットに見えるわけでもない。宇宙船の一般的なイメージがロケット――と勝手に思っているが――だからこそ、宇宙船に詳しくもない母親がぱっと見で、宇宙船だと言い切ったことに、多少の違和感を感じたのだが――。
まあ、自分が知らないだけで、あれもロケットとは言えないが、『宇宙船』と一発で分かるような形をしているのだろう――そう思ってこれ以上、話題を膨らませることはしなかった。
それからもう一度、日野はテレビ画面に映し出されている映像を見る。
その宇宙船は、新幹線の先頭部分を潰して、引き延ばしたような形をしていた。
最近はこんなものがあるのか――と、すかすかの知識に新たな知識を埋めていく。
宇宙船は、昨日、唐突に現れ、山に突き刺さっていたところを発見されたらしい――、そして今日、いつの間にか消えていた。今日のニュースはそれだけしかなかった。
どこの番組も特集――『謎のオブジェクト』というタイトルで報道している。
報道していることは母親が説明してくれた通りの内容と丸被りだった。
どうやら同じことを何回も何回も、続報が出るまで繰り返し報道しているらしい。
しかし消えてしまったのならば、これ以上の続報はないだろう――謎として不完全燃焼のまま年月が経ち、存在は忘れられ、都市伝説となっていくのだろう。
そんな末路が見えた日野の中では、こんな特集――脳の中からは消えていた。
テレビ画面から視線をはずして朝食を食べる――十分程で食べ終わり、登校する時間。
「ごちそうさま」
と言い、食器を片づけ、弁当を持ち、玄関へ向かう日野。
その途中、
「今日もがんばれやー」との父親の言葉に、片手を上げて対応した。
「…………今日は、ああ――オリジナルか」
そう呟き、今日は新しい今日だと認識して――、
日野は家を出て、高校に向かった。
―― ――
結局、昨日も、そして今日も――特集された、唐突に現れた宇宙船が世間に『宇宙船』と報道されることは一度もなかった。
ただのオブジェクト、と――。
詳細は分からず、だから分析もされず、議論さえもされることなく。
謎は謎のまま終わり――、
日野の予想通りに、都市伝説へ変化していく。
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