第4話 ??? その3
『遊戯部』と書かれたプレートがぶら下がっている部屋の中には、一人の少年がいた。
彼が使用している、部屋の真ん中に設置されている机は、まるで社長机のような雰囲気を
少年は、本を読んでいる。机には表紙が上を向いているものがあれば、裏表紙が上に向いているものもある。どちらがどうなのかは、判断がつかないが、既に読み終わったものと、これから読むものを分けているのかもしれない。
分けられたグループの本は、共に四冊だった。
読み終わったのも、これから読むものも――四冊、ということになる。
なかなか、分厚い本なので、一日に残り四冊――いま読んでいる一冊を含めれば、五冊だが――を読むことはできるのだろうか。
放課後、家に帰ってから読んだとしても、厳しい冊数ではある。
だが、少年は「読める」、と言い切るだろう。
別に、速読なわけではない。どちらかと言えば、遅い方なのだ。
あえて時間をかけて読んでいる、との考えも、あるにはあるが。
少年は、学校にいれば必ず受けるであろう授業に、出ていなかった。
だから生徒が必死に、眠気を抑えながら、面倒だと心の中で思いながらも仕方なく受けている授業をしている間――少年は、ゆっくりと本を読んでいるわけである。
どれだけ分厚かろうが、午前と午後をたっぷりと使えば、残りの本など読めるわけである。
そして、すぐに新しい本を持ってきて、読むだろう。
今日、読めなくとも、明日――明後日、と持ち越しにできるのだ。
なにも、今日中に読まなくてはいけないわけではない。
時間はたっぷりとある。
逆に、早く読めば読むほど、退屈になる時間が早くきてしまう。
だからゆっくりと読んでいる。
しかし――続きが気になって、結果、早く読んでしまうことが多々あるが。
それはそれで、まあいいかと納得している。
本など、数え切れないほどある。
終わりがない、とも言えるかもしれない。
減ることはない。毎日毎日、増えている。最近はネットを活用したりして、さらに幅が広がったようで、メガネをかけ始めていた。
目が悪くなったのではなく、目が悪くならないようにしているらしい。
メガネをかけている彼は――チャーミング。
見た目から、行動から全てにおいて――なにもかもが、可愛い。
思わず抱きしめたい感じ。
抱き着いて撫で回したい感じ。
「……って――
彼が、読んでいた本をパタリと閉じて、そう言った。
しおりを挟んでいなかったけど、大丈夫なのかな? ――いや、彼ならページ数で覚えているし、それに物語の流れは、どこまでか分かっているらしいから、安心だけどね。
「今まで三人称みたいな語りだったのに、なんでいきなり自分の感情が入っているの?」
「えー、だって……。そろそろ飽きてきちゃったし」
「飽きてきたって……君から始めたことじゃないか。外に遊びに行って、学校に戻ってきて、そしてここ――それぞれの場面を小説みたいに語って。
それを聞いている僕も、結構、楽しめたんだけどね」
「面白かった? そんなに?」
私が語ったのって、茜ちゃんと和実ちゃんとのやり取り――それと、遊ちゃんと、枠内一陣。
「変じゃなかったかな? 私、小説とか読まないし。
どうしていいか、手探りな感じだったんだけど……」
「いいんじゃないかな。僕にはしっかりと伝わって、面白かったよ。充分に楽しめた」
「本当? それなら良かった」
彼がそう言ってくれたのならば、私もこの遊びをやって良かったと思える。
これでつまらないとか言われたら(彼は言わないだろうけど)、私はこれから先、生きられないほどに精神的ダメージを受けてしまうだろう。
自殺ものである。いや、もう死んでいるんだけど。
死んでいる。
死んでふわふわ浮いている、往生際の悪い存在だ。
もう何百――を越えて、何千年もこの世界に存在し続けている。
だから世界の変化をずっとずっと見てきたわけで、世界の成長を見てきたわけなのだった。
まるで我が子を見ている感じ? でも、私が生まれた時には世界は既にあるわけだから、ずっと、母親を看病しているようなものなのかもしれない。
老人ホームで働き、衰退した体が成長――、というよりは、元の性能に戻ったのを見ている感じ? なんか違う。全然、違うかも。
でも――なんにせよ、もう成長も衰退もできない私には、変化が訪れることは羨ましい。
嫉妬しちゃう。世界に嫉妬しちゃう。今の学生に嫉妬しちゃう。
呪ってやろうかと思うけど――既に一件、変なことをしてしまったせいで、学園七不思議に私が登録されてしまった。
今はただの噂で、お遊びのテンションでいられるけど、これ以上のことをすれば、本気でお祓いものになってしまう。
迂闊なことはできない。
もっともっと、学園の中を見て回りたいのに! こんな仕打ちはあんまりだっ!
「……部屋の中を縦横無尽に駆け回らないで。
おとなしく座っていなよ。座ることはできるでしょ、幽霊でも」
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