~1期生 キャシー~

 首都と貿易中継地を結ぶ街路の途中にある弱小貴族の領地。街路脇にある森で小鳥と戯れる少女がいた。家近くの森へと辿りついた彼女は、ドレスとウィッグを脱ぎ捨てる。

自身の鼻歌に合わせてテンポよく、思うがままに体を動かしていく。陽に映える橙のショートヘアと、猫を思わせる瞳の揺らめきは加速し、やがて歌と一体となる。その動きは心より湧き出たかのように自然であり、かつ澱みないものである。その実、貴族としての教養、ダンスレッスンを抜け出して気分転換をしているだけではあったが。

 そこへ、コーラス担当を追い払うかの如く、甲高い声が響き渡る。


「うむ、『はらたつわ』がくちぐせのげいにんなみにきれのあるだんす!

ぼくっこわくはこれできまりなのですっ!」


「えっ?い、いったい何なの?」


 唐突に僕っ娘呼ばわりされ、困惑する少女――キャシーに対して、ヤスシはすぐさまスカウトの話を切り出す。自由に歌って踊れるというその提案はキャシーにとって非常に魅力的であり笑みを浮かべるが、直ぐにそれは曇ることとなる。


「でも、ボクの家は、家計が苦しいって……!」


 キャシーの家は貿易路の途中にあるものの、その位置は中途半端であるため、落とされる財は限定的なものとなっていた。そして、家長が商才に乏しかった事もあり、その経営はかなりひっ迫されていた。そのため、どうにか裕福な貴族へと嫁がせんと、熱心に娘の教育へ取り組んでいた。


「がきをしつけてうるより、こうりつてきなやりかたをおしえてやるですっ!」


「……私どもの事業に参画頂く事で、より大きな資金を稼ぐことが可能となります。それに関しましては、私よりお家の方へもしっかりと説明をさせて頂きます。」


 アーキモト商会の資金力・知名度、そして王国の後ろ盾を効果的に用いる事で、ヤスシは容易くキャシー家を篭絡し、メンバー入りを了承させる事に成功した。

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