~1期生 マリア~

 とある孤児院の裏庭。まだ年若い孤児たちを集め、一人の少女が歌っていた。大きな振りで打ちなされる小さな手音を伴奏に、何処とも知れず聞き覚えた音へとぎれとぎれの歌詞をのせる。娯楽に飢えた聴衆にはそれで十分とばかりに、曲終わりの伴奏はひときわ大きく響いた。


「マリアおねーちゃんは、歌手にならないの?」


「……え?そ、そうね。お金も稼がなきゃならないし、私は普通に働くつもりよ♪」


 聴衆よりかけられた無邪気な問いかけに笑顔を陰らせて困った顔を見せた少女――マリアだったが、直ぐに元の調子に戻り明るく否定する。かきあげられた赤茶色の髪の下には、意思の強さを想像させる大きな瞳が碧に揺らめいていた。

 惜しまれつつも聴衆を帰らせ、自らも宿題という現実へと戻ろうと踵を返したその時、先ほど以上に幼い声が響き渡った。


「おまえにはせいとうはひろいんのそよーがあるのですっ!」


「……どうやら、貴女はスターの原石となる資格をお持ちのようです。」


「なっ、何?この人達……。」


 突如現れた幼女と、それに付き従う怪しげな執事服の男に戸惑いを隠せないマリア。そこへすぐさまフォローを入れる優秀な通訳。


「失礼しました、私どもはこういうものです。」


 アーキモト家の家紋とともに、スカウトの趣旨を説明するヤスシ。


「えっ!あ、あの有名な大商家のアーキモト!で、でも困ります……。」


 町でも有名な商会の名を聞き、不審者でない事に一安心したマリアであったが、先も知れぬ商売では安定した収入は望めないと考え、心惹かれながらも拒絶の意を示す。それを見越していたヤスシは更に言葉を続け説得に掛かる。


「お金に困っていらっしゃるという事は私どもも把握しております。勿論、貴女方に有用な条件をご用意させて頂いております。……こういう条件では如何でしょうか?」


「……ぜ、是非お願い致します!」


 孤児院に対する支援も含めたヤスシの提案に抗う余地はなく、二つ返事で参加を決めたマリア。この時点で既に話は孤児院側にも通っており、王立学校卒業後すぐのメンバー入りが確定した。

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