~転生後 クラリス②~
実現可能な商品の開発が一通り終わったタイミングで、クラリスは次なるビジネスへと手を伸ばす決意を固めた。いくら前世の知識があるとはいえ、高度な科学技術を要するような商品の開発というのは彼女には荷が重い。そこで、具体的な商品開発から、ビジネスのアイディアだし、モデル構築へと軸足を移そうと考えたのだ。これであれば、自分にない能力は他人が補ってくれるので、持続的な発展が望める。
既にルーチンワークとなった自己暗示をかけた後、クラリスはおもむろに父親へとおねだりを告げる。私は幼女、幼女、よう女、ようじょ、ょぅι゛ょ……。ういーん、ういーん。
「おとーたま!わたち、おさけのみせをやりたいの!」
突飛なおねだりにも慣れ、いつも通りに娘の『萌え』を愛でようと大きく構えていたアーキモト家当主も、思わず目がビッグになり椅子から転げそうになった、と後に語ったこの瞬間、大王国に新たな飲食業が産声をあげた。と言っても、それは奇抜な何かではなく、前世においては既に古典とも言えるレベルの理論を積み重ねただけのものではあったが。
「お、お酒の店かい?それは、また、急にどうして?
ま、まさかお酒を飲みたくなるようなつらい事が……!」
その指摘は、自己暗示が必要なくらいの苦難の中に常にいる、という点では中らずと雖も遠からずではあったが、店を作りたい理由ではなかった。そのため、父親の余計な心配はバッサリと切られることとなる。
「ちがいまちゅ。わたちがのみたいじゃありません!おかーたまにあたまのあがらないおとーたまとはちがいますので、いっしょにちないでくだちゃい!」
クラリスのあげたプランの内容としては、オーソドックスに商工地区向け飲食店である。ただ、飲食の提供とともに、学生と職場の架け橋となる空間を提供する、というコンセプトになっているところが目新しいポイントである。ちょうどその頃、大王国では一般市民にも開放された学園、というものが開設されていた。その門戸は広く開かれてはいたが、そこへ通う一般市民の学生たちは向学心に溢れる一方で経済的にはかなり苦しい状況に置かれていた。そんな彼らに必要経費を稼ぐ場を与えるとともに、その知恵をうまく商品開発やサービス開発へ活かす事を考えた形である。また、客層となる商工関係者とのコネクション作る場ともなる事で、卒業後の進路を見つけやすく、逆に商工関係者には優秀な人材を発掘する機会が得られる。つまり、ある種のプラットフォームビジネスも兼ねる事になる。
「まずは。てちたをかくほするのですっ!」
家族内における一番の下っ端、もとい手下である父親を動かし、学園への繋ぎをさせたクラリスは、学生の中でも特に優秀とされている少年へコンタクトし、その懐柔――説得を試みた。万全を期して、直前におまじないをする事も忘れない。私は幼女、幼女、よう女、ようじょ、ょぅι゛ょ……。ういーん、ういーん。
「おまえのみぎてをわたちにささげるのでちっ!」
「……私に貴方の右腕、補佐役になれ、というご要望でしょうか?」
文字通り受け取ればスプラッタ映画のワンシーンになりそうな要求を咀嚼し、意味を正確に把握して反芻する優秀な少年。
「つまり、働く学生、お客、そして店にもメリットがある、という事ですか……。」
唐突に幼女と面談させられ、かつその勧誘を受けた少年は、面食らうとともに警戒をしつつ話を聞いていたが、片言で話されるその中身を優秀であるが故に正確、或いはそれ以上に理解し、徐々に引き込まれていった。頭の良さ故に勝手に深読みをして心酔していくという、宗教に嵌まる秀才の典型例とも言える。
「ただ店を作りたいという事ではなく、ビジョンを掲げてそれにあった環境と人を揃える、と。」
結果、掲げられたビジョンと『三方よし』ととれるその仕組みに興味を覚え、まずは参加・協力することを了承するに至った。なお、この会談はクラリス発案のもと、『旨い食事』とともに行われた。『旨い』と言っても高価さが前面に出ないような配慮とともに、である。
会談中は口にこそ出さなかったが、彼もまたアーキモト家の人間たち同様、クラリスの持つ『萌え要素』に気づいており、会談後にそのことを口に出そうとして家族に諭されて同調したたため、以後はその伝道者としての役割も担う事となった。
「承知致しました。私に是非お手伝いをさせて下さい。どこまでお力になれるか分かりませんが、微力を尽くさせて頂きます。」
「うむ。よきにはからうのでちゅ!」
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