~転生後 ジル⑫~

前述の通り、建国祭には各国の要人が集められていると同時に、祭りを盛り上げるための様々な催し物が行われている。流行りの劇団や絵画・音楽と幅広い分野にわたって招集されており、招かれた側としても、そういったものを広く周知する場として活用するという思惑がある形だ。

 大衆向けの公演の中でも特に興味があったのは、大陸中で今ブームとなりつつあるという、クラリス音楽団の公演で、僕らはそのチケットをあらゆるコネを使いつつ入手、観に行く事に成功した。

このクラリス音楽団というのは、大陸の南にある共和国との貿易などで大きな利益をあげて急成長を遂げたアーキモト家という大商家が後援・主催している音楽グループだ。しかも、『会いに行けるアイドル』という何処かで聞いた事あるコンセプト。グループ内で競争を行い、選抜された一部のメンバーが前面に出て歌って踊る、という形だ。しかもグッズや握手券販売なども行って大きな収益をあげているらしい。これを考案したのは末の娘、それもまだ幼い少女だというのがもっぱらの噂であるが、残念ながら今回彼女の姿を拝むことは叶わなかった。

 因みに、アーキモト家は貿易だけでなく、飲食店から始まり果ては貸金・銀行業など、幅広く事業を行っている。しかも、それらのビジネスモデルを考案したのも先の少女だという説がある。それが事実だとすれば、よほどの天才か、或いは僕と同じ転生者でそういった事に明るい前世だったのだろう。


 クラリス音楽団の公演――ライブは大盛り上がりで、僕も懐かしさを覚えるとともに、そのクオリティに感心した。


「何か、ノリ易いテンポの曲が多いわね!観客も変な踊りをしているし!」


 BPM120~150とかその位の楽曲が多めな感じだ。それにしても、魔法で光る棒まで販売されているとは……!


「意外と歌も上手いのですね。貴族お抱えの最高級歌手レベルとまでは言えませんが、大衆向けでこれは中々のものだと思います。」


 彼女たちも厳しい選抜をくぐり抜けてきているだろうし、この時代に『スポーツと音楽の融合』の一人のような口パクは厳しいだろう。


「……跳んだり跳ねたり、大変。目が回る。」


 振り付けがある事で、『幼女向け変身ガチンゴバトル番組の主題歌』のようにブレイクし易くなる部分はあるだろう。流石に配信ツールまでは無いだろうが。


「あんなに激しい踊りをしながら歌えるなんて凄いですね!」


 体力が無いとアイドルは務まらない……!ランニングと森林伐採が活動の基本になる、はず。


「むう。『可愛い』が沢山。参考にするのです。マンネリ防止は重要。」


 ……流石に衣装までは売り出していないだろうが。著作権が無いので、だれでもコピー品が作れる?


 こうして祭りを満喫した僕らは、来るべき決戦の時に備えて気力を充実させる事が出来た。

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