~クロエ視点~

 下に降りると、そこは小さな部屋になっており、端には大きな扉があるだけ。まさに『ボスがいますよ!』的な奴。ジルの言っていた事は間違いではなかったようです。番になる雄に妄想癖が無くて喜ばしい限りなのです。……妄想癖があっても僕が支えてやるのですが。


「……どうやら、間違いなさそうだな。この先に恐らくボス……、強力な魔物がいるはず。

 ここで補助魔法を掛けて、その上で突っ込むのが定石だろう。バフ&デバフは鉄板。使いこなせれば低レベルでもボスに勝てる。これはRPGにおける古くからの鉄則だ。

クロエさん!お願いできるかな?」


「任せるのです。」


 ……やっぱり妄想癖がありそうなのです。よく分からない発言が挟まってきてますが、まあ多めに見てやるのです。あばたもえくぼ、惚れた弱みなのです。僕は出来た女なのですよ!


「”防魔!”」


 まず、僕とエルフ娘――後衛には魔法・ブレス対策を主眼とした補助を掛けます。

エルフ娘は種族に見合った弓の腕を持っていて、精霊魔法も使えるようなので、後衛として役に立つのです。同じ理由で華奢なので、顔以外はそこまで脅威では無いのです。そして、頭はそこまでよくなさそうなので、扱いとしては楽?っぽいのです。


「” 竜皮付与”、なのです!」


人間の娘は壁として使えそうなので、物理防御重視で補助。ジルと同じ人間、それなりにいい体つきをしているので要注意なのです。ジルが時々垂れ流す妄言でいう、『ツンデレ』?というやつっぽいので、ジルにそういう性癖があるとちょっと厄介になります。


「”加速!”」


 犬っころはどうせ当たったら即死コースですので、無駄に速い足を更に速くします。『あたらなければどうという事はない』というやつなのです。精々吠えて、走り回って、おとりになってくれればよいのです。


「”防魔”&” 竜皮付与”、なのです!」


 半魔族娘は一番厄介なのです。特にあの脂肪の無駄遣いが脅威。そして、女子力さりげなく見せつけ、ジルの胃を掴もうとする辺りも。押しが弱そうな振りをして一番強かに攻めてくる強敵。『エヴリーヌ……恐ろしい子!』なのです。


「まとめて全部、なのです!」


 ジルにはもちろん、掛けられるだけの補助を掛けて、万全の備えをするのです。番いが傷つくリスクは最小限にとどめるのが、賢い妻の心遣いなのです。


「ここまでに見た文献等、人工の魔物というところを鑑みると、やはりボスはキマイラ、だろうか?定番だと獅子、山羊、竜、の組み合わせだが?」


 ジルがまたよく分からない話を始めました。妄想をやみくもに否定せず、その上で上手く生きていけるよう支えるのも良き妻の役割なのですよ。それに、何だかんだ言っても、役に立っている気がするのです。


「よし。準備はいいね?

 強敵が待っているだろうから、気を抜かず、注意していこう!」


 ジルが扉を開き、前衛が中へと飛びこんだ後、僕たちも後に続きました。奥の高台には祭壇が設置されており、そこには荘厳な意匠が施された一振の剣が刺さっています。


「へー、ジルの言った通りみたいね!何か寄せ集めみたいのがお待ちかねみたい!」


祭壇の前方、僕たちとの間には一体の巨大な魔物が待ち構えていたのです。背丈は1.5m、3mほどの体の先に更に1mの尾がついています。ジルの妄言通りに獅子、山羊、竜3種類の頭を持っていて1つ胴体へと繋がっています。


「……来る!」


 魔物は咆哮をあげると、巨体に似合わぬ俊敏さで距離を詰め、襲いかかってきたのです。ジルと犬っころが左右に展開したところで、人間の雌が直撃を避けつつ、その爪を受け止めました。


「重い、ですわね!」


 動きが止まったところへ、エルフと半魔が攻撃を加えましたが、矢はあっさりと振り払われ、魔法は殆どダメージを与えられていないのです。役に立たない雌たちなのです!

 前衛たちも隙を見ては攻撃を加えますが、巧みに操られる爪・牙・尻尾の前に有効打を加えられず、逆に反撃で徐々に傷が増えていきます。


「ここは僕もなのです!”閃熱吐息!!”」


 滅多に使用しないブレスも駆使して攻撃を加えますが、憎らしいことに、それもほぼ効果が無いのです。逆に同族の頭から吐き出された炎に焙られそうになり、慌ててかわしました。


「忌々しい奴なのですね!」


 暫くの間、お互い有効打を与えられず、膠着していたのですが、徐々に僕たちの方が劣勢へとおいこまれ、遂に……。


「ジル(さん)!」


 振り払われた尻尾を躱しきれなかったジルが大きく祭壇の方へ吹き飛ばされてしまったのです!

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