~ステファニー視点~

「これはちょっと厳しいですわね。」


 敷地内を探索していた私たちは、詰所の奥で崩れ落ちた階段を発見いたしました。かつてはこの地上と地下施設とを繋いでいたであろうその場所は、崩れ落ちた壁により殆どが埋まっており、人が通り抜ける隙間は残されておりません。


「そうだな……。これを掘り返す、というのはちょっとナンセンスそうだ。悠長にそんなことをしていたら、後口のお客さんがきてしまいそうだし。他を探してみよう!」


 そう宣言したジルは、北側に設置されているまっさきに祭儀場を探索しはじめました。なぜそこから?と訝しく思いながらそれに付き従った私たちでしたが、ほどなくして祭壇裏から地下への階段を発見する事に成功いたしました。


「何故ここを重点的に?」


 疑問に思った私が問うと、ジルはさも自明の事であるかのように答えました。


「こういうのは定番だからな。祭壇だとか玉座の裏には大体隠し階段がある。ラストダンジョンと言ったらこれだ。」


 よく分からない理論ですが、どうやらジルには確信があったようです。さ、流石は私のジル、といっておきましょう!この位でないと、私のパートナーに相応しくありませんわ!


 階段を降りるとそこは小さなフロアになっており、奥に先へと続く通路が見えました。打ち捨てられてかなりの期間が経過しているはずですが、灯りは失われておらず、ぼんやりと先の闇を照らしておりました。


「魔物の気配……。多分獣と、骨?」


「私とジルで先行しますので、皆さんはその後に続いてください。」


 リリアーヌさんの聴覚が先に潜む魔物たちを捉えました。戦闘に備えて、私とジルが前に出ます。……前衛向けの職、装備なのが私とジルだっただけ。別に、ジルと並んで進みたかった訳ではありませんわ!

 慎重に先へ進むと、内臓を失い肋骨を露出させた犬と、身を失っても尚動き続ける従者が待ち構えておりました。


「ゾンビハウンドとボーンサーバントだ!仲間を呼ばれる前に速攻で片付ける!」


 ジルの声を合図に前へと踊り出た私は、目の前にいたボーンサーバントへと打ち掛かります。私は細剣を操り関節を切り刻んだ上で、パーツパーツを蹴り飛ばしました。こういった類の魔物に対しては鈍器の類があれば有効なのですが。まあなくてもどうにかなりますね。鈍器を使う騎士、というのはあまりエレガントではありませんし。そう言った点では、蹴とばすのも淑女らしくないでしょうか?


「……逃さない!」


遠くにいたゾンビハウンドに対して、リリアーヌさんが俊足を活かして襲い掛かります。こういうった対応は、異種族パーティーならではですね。仲間を呼ばれると厄介ですので助かります。別に私も足が遅い、という訳ではありませんが、装備の重量もありますし、何より獣人、狼の脚力とは比ぶべくもないですね。……最近、ちょっと食べ過ぎでしょうか?冒険者になってからは、好きな時に好きなだけ食べられるので、つい……。


 程なくして殲滅に成功した私たちでしたが、奥の部屋には更なる魔物が待ち構えておりました。


「あ、あれはコマンダーでしょうか?それと魔力強化されたサーバント、あとゾンビハウンドもまだ数体残っているようです!」


 執事たちを束ねる家令――サーバントたちの上役と、そしてまだ犬たちが数体残っているようです。


「じ、自分が魔法で援護しますので、その隙に接近してください!」


自然発生するような魔物たちではないので、配置された目的が少し気になりますが、まずは殲滅に専念しましょう。

 エヴリーヌさんの放った火球は、部屋の中央で弾けると熱波で犬たちの体勢を崩しながら焼き払いました。


「行くぞ!」


 ジルの掛け声を合図に再び突入した私は、リリアーヌさんに続いてサーバントたちへ向かって突撃しました。


「……邪魔、です!」


 リリアーヌさんがボーンサーバントを薙ぎ払ったタイミングを逃さず、一目散にコマンダーへと肉薄します。


「頭を潰すのが肝要、ですわね!」


 他のサーバントたちよりは強敵ではあるものの、コマンダーも私の敵ではありません。程なくして解体に成功した頃には、他の魔物たちも皆さんの手で退治されておりました。

 魔物たちを倒した後で更に探索を続けると、扉の先で下の階へ続く階段が配置された部屋を発見しました。また、コマンダーたちがいた部屋の奥にはテーブルとともに棚がおかれておりました。


「書棚があるのです。もう魔物の姿も見えない事だし、情報収集をしていくのですよ。」


 悠長に読書にふける時間まではないですが、ここが何の遺跡であるかを知る手がかりが得られる可能性があり、それはこの先へ進む際の手助けともなります。ちょっと時間が掛かりましたが、手分けをしてざっと書物を漁った結果、その一端を覗い知る事に成功しました。


「どうやら、何等かの武器を研究していた施設ようようだな……。そしてその実験相手として魔物たちを生成した、か?」


「研究が完成した後、施設は放棄されたみたいですね。魔物をそのまま放置するなんて迷惑な人間たちなのです。魔物遺棄、ダメ絶対、なのです。」


 人間の魔道士によって作られた施設で、施設とともに実験用の魔物たちもそのまま打ち棄てられた、という事のようです。道理で、地上や付近とは全く異なった魔物たちが住み着いている、という訳ですね。とすると、下の階においても、ゴブリンたちでは対抗できないくらいの力を持った魔法生物の類が出現する可能性が高い事になります。


「取り敢えず、今後遭遇する可能性が高い魔物の傾向、情報は掴めた、か。

魔物の遺棄は犯罪、魔物愛護法何てものは……流石に無いか。

 ここの調査はこれ位にして、ひとまず先に進もうか!」


 書棚の調査はそこで切り上げ、私たちは階段のその先、地下2階へと歩を進めました。

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