~セリーヌ視点~

「……一旦止まって!

 ふんふん。見張りがいるみたい。早速あたしの出番って訳ね。

 ちょっと待ってて!周りを確認して来るわ!」


 街のギルドで依頼を受けたあたしたちは、ジルとパーティーを組む、という話を一時保留として、その場にいた全員で発見されたという古代遺跡へと向かったわ。

 街からそれ程離れておらず、また全員がそれなりに実力のある冒険者だったことが幸いし、問題なく遺跡へと辿り着いたのだけど、中にある物見塔の上に見張りらしき物陰が見えたので、ひとまず偵察をする事にしたの。スカウトの本領発揮よね!


「それなら私も行く。

 私なら森の中の隠密行動は得意だし、鼻も利く。偵察には最適。

 ジルの配分は一度棚上げして、まずは協力して依頼に当たるべき。」


「……そうね!私は西から周るので、貴女は東からお願い。

 北で一度落ち合いましょう!」


 リリアーヌっていう獣人の娘が自分も行くと言い出したので、手分けをする事にしたわ。

 狼系の獣人のようだし、ここに来るまでの動きを見た限りでは、隠密行動に不安は無いので任せても問題ないと判断。

 見張りに見つからないよう、遺跡を囲う塀から少し離れたところを慎重に進む。閉じられた正門西側の壁が崩れており、そこから中へ突入可能そうだけれど、見張りからは丸見えね。

それ以外は、見る限り西側の壁には入り込めそうな隙は見つけられなかったわ。

 北側に回って暫くしたところに小さな孔があったけれど、残念ながら人が通れる程の隙間は無く、中の様子を辛うじて視認するのがやっと。一応覗き込んで確認すると、西側に大きな建物と、東側には祭場らしき窪みが見えた。そして、敷地内の見回りをしているゴブリンが数体。規模からすると通常のゴブリンだけでなく、シャーマンやホブ、ロード何かも居るかもしれないわね。

 そこから更に進んだところで、無事リリアーヌと合流する事が出来たわ。


「北東の角、崩落した土砂が中まで流れ込んで、いる。

 でも、状態が悪くて突入するのは難しい?」


 合流後、二人で北東の崩落部、北西の小さな孔を再度確認したあたしたちは、情報精査を先延ばしにして皆と合流して作戦を練る事にしたわ。

 

「物見塔の見張りはあたしに任せて!他に気づかせずに射貫いてあげる!」


「突入まではいいのですが、何匹いるのかがわからないのが困りものなのです。

 できればもっと観察して、挟撃・各個撃破が理想なのです。」


力強く宣言したあたしに対して、竜人の娘、クロエが意見を加えた。あたしも同意見なので特に反論はしない。彼女はメンバーの中ではかなり賢そうだしね!


「そうだな。ゴブリン退治専門の冒険者がいる世界ほどではないが、あいつらは悪知恵も働く。真正面から行くだけ、というのはちょっと不安が残る。」


 別世界?を知っているかのようなジルの口調に若干引っ掛かりを覚えたけど、まあその通りよね。ゴブリンたちは何も考えない馬鹿という訳でもない。シャーマンやロードも混じっている事だし、何か罠が仕掛けられている可能性はあるわね!


「北側の壁もそんなには高くないのではなくて?クロエさん……、の翼で乗り越えられないでしょうか?孔も空いているようですし、中の様子を伺いながら挟撃、という事もできるのでは?」


「……人間の雌にしてはいい着眼点なのです。お前のように重たい奴はともかく、狼程度ならどうにか飛んで運べるのです。僕が後衛、狼が前衛でいけば、十分挟撃の役目を果たせるのです。」


 クロエはあまり他人の名前を覚えないタイプなのかしら?若干引っ掛かりのある答え方よね!ステファニーの着ている鎧が『重たそう』なのは確かだけれど。動きも鈍るし、音もなるのでスカウトには不向き。そもそも、あたしたちは革の防具くらいしか着けないけどね!


「目と足には自信がある。クロエに運んで貰えば、直ぐ助けに行くことも可能。」


「……じゃ、じゃあそれでいきましょう!クロエさんとリリアーヌさんには背後に回っていただいて、他の皆さんは正面から。私も微力ながらお手伝いします!」


 取り敢えず作戦は決まったみたい。相手はたかがゴブリンだし、このメンバーならあまり慎重になる必要はなさそうだけどね!身のこなしを見る限り、皆Cランクというのは伊達じゃなさそうだから。


「じゃあタイミングを合わせて。二人がちょうど北側に到達した頃をめどに作戦を開始しよう。皆気を付けて!」


 ジルの号令を合図に作戦開始となったわ。


「……見ててね!これがエルフ直伝の弓術よ!」


 そう言って私は二本の矢を取り出すと、弦を引き絞り空へと放つ。


「空っ?」


 ジルが思わずあげた声とともに上空へと一直線に進んだ矢は、相応の高度まで達した後に弓なりの軌道を残して地面へと進路を変える。そしてそのまま突き進み……。


「んがっ?」


何が起きたか理解する暇も与えず、見張りのゴブリンたちを頭上から床へと縫い付けることに成功した。もちろん、声を上げる暇もなく絶命している。


「成功ね!今よ!」


「よし!突入だ!」


声をあげたジルに続いてステファニー、エヴリーヌが中へと突入していく。反対側ではクロエがリリアーヌを抱えて壁を飛び越えて行っているはず。

あたしは、ジルたちのあとを追って中へと侵入した。


「ぬるいわ!所詮はゴブリンかしら!?」


 視界に捉えたゴブリンを一矢のもとに下し、前衛を援護する。視線を奥に移すと、シャーマンにとびかかるリリアーヌが遠目に確認できた。


「やるわね!」


 突然の侵入者に慌てふためくゴブリンたちを屠るのは簡単な作業だったわ。ほどなくしてゴブリンたちの頭目、ロードを退治したあたしたちは、地下への入口を探すため、敷地内をくまなく探索することにした。

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