~転生後 ジル⑥~

「どうしてこうなった……?」

 ギルドの奥にある大会議室。そこで僕は5人……、いや、6人の女性に囲まれていた。

 その日、いつもと同じように、依頼を物色するべく、ギルドへと立ち寄った。掲示板を眺め、めぼしい依頼を見つけて手を伸ばしたその瞬間。


「ねえ!ジル、ジルって冒険者はいるかしら!?」


大きな声をあげながら中へと入って来た女性が一人。その娘は緑の髪の下に尖った長い耳をのぞかせていた。


「セリーヌさん!?どうしてこんなところに!?」


 それは見覚えのある顔だった。前に依頼で係った、エルフの女性。名前が直ぐ出てくる程度には印象に残っているが、何故こんなところに居るのか、僕を訪ねてきているのかは全く分からない。


「あっ!!ジル、探したわよ!!ようやく会えたわね!!」


 そう言いながら一直線に近寄ってくる。

そして、彼女を皮切りに、過去依頼で係った女性5人が同時に僕を訪ねてきたのだ。混沌としたその様子を見かけた受付のお姉さんの提案で、こうして奥の部屋にて僕は取り囲まれる事となった……。


「……えっと。まずは皆さん自己紹介と訪ねて来られた目的をお話頂けますでしょうか?」


 お姉さんの司会によりその場は仕切られ、話は進められる。驚いた事に、皆の目的は同じ――僕のパーティーに加わりたいという事だった。


「ひとりずつ順にお願い致します。……まずは、そちらのエルフの方から。」


 最初に振られたのは先程のエルフ少女ことセリーヌ。


「まずはあたしからね!

 あたしはセリーヌ。見ての通りエルフよ。

歳は……、秘密!まあ、あなた達の誰よりも長く生きているのは確かね!

武器は弓矢、勿論精霊術も使えるわ!

冒険者としての役どころとしては、スカウト(野伏)ね!今はCランク。

野外の探索は大得意よ。宜しくね!」


 セリーヌの見た目は15~6の少女(実年齢は……、その10倍以上か?)で、大きくて若干尖った眼を持っいて勝気・陽気な印象。

 スレンダー(これも種族的な特徴なのだろうか?逆のタイプも物語ではよく出てくるが)な身体で、腕・脚を惜しげなく露出させている。

 彼女とは、この国で瀕死のエルフから受けた依頼の際に知り合った。

 彼女の住んでいた村が魔物に襲われて壊滅状態にある、という事でその救援を行ったのだ。

 半壊した村の外れで襲われていた彼女を助け、その後は協力して解決に当たった。

結果としては、どうにか魔物の脅威を除ける事に成功した。

彼女とはそれっきり会う事は無かったのだが、どうやら村を飛び出して冒険者となり、活躍をしていたようだ。もともと保守的で、村の雰囲気に反発的だったので、事件を機にと、決心を固めたのかもしれない。


「ど~せ、ジルはまだソロなんでしょう!

 要領悪そうだし、難度が上がった依頼に四苦八苦、ってとこかしら。

 一応助けて貰った恩もあるし、放っておいて何かあったら寝覚めが悪いわ!

 仕方が無いから、あたしが手伝ってあげる!感謝しなさいよっ!?」


「……はい、ありがとうございます。お元気な方ですね。

 それでは次の方、お願い致します。」


 満面の笑みで恩着せがましい発言をしたセリーヌの次に指名されたのは半獣人の少女――見た目は幼女に近い。赤みがかった髪の上に、毛におおわれた耳が飛び出ている。

 童顔の下も、それにふさわしい体型だが、外に伸びた肌色の四肢には鍛え抜かれたしなやかさを感じられる。

 ただ、殆ど表情はなく、大きく開かれた瞳からも感情は読み取れなかった。


「私?……私はリリアーヌ。狼系の獣人。

 こう見えて、もう一人前。子供も作れる年齢。だから安心していい。

 武器は自前の爪と、拳。格闘戦が得意。

そして、冒険者ランクはC。宜しくお願い。」


 表情同様に、抑揚のない声で自己紹介をするリリアーヌ。

 彼女と出会ったのは小王国群にあるギルドにて、人身売買の調査依頼を受けた時だった。

 地道な捜査の最中、取引現場に踏み込んだ際、偶然見つけて保護(僕的には)した。

 そして、協力を申し出た彼女とともに調査を続け、最終的には組織の一端を壊滅させる事に成功した。ただ、残念な事に、その組織は別の閉鎖的な国に本部があったため、そこまでは踏み込めず、完全な掃討には至らなかった。

 その後直ぐに小王国群を離れ、彼女ともそれきりになっていたのだが、どうやら冒険者となって、組織への復讐の機会を探っていたようだ。


「むう。ソロのはずなのに他の雌が沢山、です。

 5人……、いや、6人?1日1人として、1日余る計算……。

 でも、まだ若いから1日あればきっと回復できる、はず。

大家族目指して、ジルには頑張って欲しい。」


「……あ、えっ、えっと――。ありがとうございました!!

と、とりあえずジルさんの仲間になりたい、という事ですね!

では、次の方にいきましょう!」


 よく分からない話をし始めたところで受付のお姉さんに打ち切られたため、次へ移る。

 しかし、何が1日1人なのだろうか?1日余る?1週間という事だろうか?

 次は白銀セミロングの髪をした女性。

自己紹介のため取られたフードの下には、若干尖った耳、そして朱金の瞳、整った顔立ちが隠されていた。

大きめのローブを着こんでおり、その下がどうなっているかうかがい知ることは出来ないようになっている。ただ、見えている手足からは、大分華奢な印象を受ける。


「じ、自分はエヴリーヌ、と申します。

 魔族と人間のハーフ、です。

実年齢も見た目とあまり変わらない、と思います。

 武器は剣と、魔術も多少扱えます。ランクは皆さんと同じCになります。

 宜しくお願い致します。」


 控えめながらもよく通る声で自己紹介をしたエヴリーヌ。

 彼女とは、共和国で受けた依頼の際、事件調査で踏み入れたスラム街にて出会った。

 魔術絡みの事件が起きており、ハーフであるという事を理由に濡れ衣を着せられ、私刑にあいそうになった所を助けたのが縁だ。

 方々を奔走し、どうにか濡れ衣を晴らした所で、彼女は僕の手伝いを申し出てくれたんだ。

そして、彼女の協力もあり、無事依頼をこなした僕は、直ぐに帝国側へと戻ったため、その後の身の振り様は知らなかったのだが、どうやら、持前の魔力を生かして冒険者となっていたようだ。


「じ、自分は、昔ジルさんに助けて頂いたので、その恩返しをと。

 どうにか冒険者として一人前になれたのを機に、分かれ際にお伺いしていたこの街のギルドを訪ねて参りました。

 ジ、ジルさんのお力になりたいと思いますので、是非仲間に加えて頂けないでしょうか?」


「丁寧な方ですね。お話はよく分かりました。

何となくですが、5人の中で一番まともな方だ、という予感がします。

 では、ひとまず次の方お願いします。」


 エヴリーヌは昔あった時と変わらず、控えめて奥ゆかしい女性のままのようだ。

 ただ、以前より大分前向きになってくれたようで、その点は安心した。

 次は黒髪ロングの女の子。リリアーヌよりは少し上だが、見た目は幼女に近い。

 整った顔立ちだが、髪の下からは小さな角、そして背中には小さな翼が生えており、人間とは違う生き物であることを意識させる。


「僕はクロエ、竜と人間のハーフなのです。

見た目よりは長く生きていますが、まだアラハンド前なのです。

 サポートを主とした後衛だけど、それでもCランクになりました。

 宜しくお願いするのです。」


 明るく高い声で微妙な丁寧語を操るクロエ。

 彼女との出会いは帝国内で、遺跡探索の依頼を受けた時だ。

 辺境の山間部で古代遺跡の目撃情報が上がったとの事で調査に赴いた。

 山脈近くの村で調査隊と合流したものの、その後遺跡に移動する最中にモンスターに襲われ、川に落ちてはぐれてしまった。

 川からどうにか這い上がったものの、そこで力尽きていた僕を助けてくれたのが、その付近に隠れ住んでいた彼女だった。

 彼女は自分の見た目等に負い目を感じており、人目につかない所でひっそりと暮らしていた。

 受けた恩を返し、彼女に新たな可能性を見つけた欲しいと考えた僕は、遺跡探索への協力を要請し、冒険へと誘った。

 遺跡探索は無事完了し、それきりとなっていたのだが、どうやら僕の試みは成功し、彼女は新たな道――冒険者としての一歩を踏み出してくれていたようだ。


「僕は寛大なので、他の子を囲うのも許してやるのです。

随分と数が多いのが気になりますですが、壁は多い方が生き残り易いのでやむなし、です。

でも、肉体派で抜けているジルには僕のような知性派、サポート役が一番重要なのですよ!

その点はよく肝に銘じておくのです!」


「えっと、はい。ありがとうございました。確かに、サポート役は必要ですね。

 強敵との戦いは、補助の使い方次第で有利に運べますし……。

 それでは、最後の方お願い致します。」


 クロエが堂々と生きてくれているのはいいが、若干性格(言動)が変わり過ぎているのが気になった。流石に声までは変わっていなかったが。一体、何が彼女をそうさせたのだろうか?

 最後は人間の女性。確か、年齢は僕と同じ位。長い金の髪を束ねて流している。

 整った顔立ちだが、若干つり目気味で、きつい印象も受ける。

 金属製の軽鎧に身を包んでいるが、その上からでも女性らしいメリハリが見てとれる。

 腰には細剣を刺しており、『ザ・女騎士』といった体だ。


「私(わたくし)はステファニー・ハワード。

 大王国の貴族ですわ。今は家を出ているので、その点を気にして頂く必要はありませんけど。

 昔から嗜んでいた剣術、細剣の扱いが得意で、ランクはC。皆さんと一緒ですわね。

 宜しくお願い致します。」


 はきはきとした声で自己紹介をするステファニー。

 彼女との出会いは大王国の辺境で盗賊退治支援の依頼を受けた時だった。

 街のギルドで依頼を受け屋敷を訪ねた僕を、最初に出迎えたのは彼女の罵声だった。

 辺境とは言え、貴族である事に誇りを持っていた彼女は、僕に対してきつく当たってきた。

 そそして、依頼主である当主は窘め、協力するように言い聞かせていたのだが、結局は先走って盗賊退治へと向かってしまった。

『くっころ』感が満載の展開に不安を覚えた僕は、当主に対して早急に兵を動かすようお願いすると、彼女を追って飛び出した。

結果的には、ぎりぎりの所で彼女を助ける事が出来たため、事なきを得た。

その後は彼女に不平不満を言われながらも、協力をして事にあたり、盗賊撃退に成功した形だ。

報酬を貰って別れた後の事は聞き及んでいなかったが、何故か冒険者になっていたようだ。どういう心境の変化だろう?


「依頼であったとは言え、ジルに助けて頂いたのは事実。

 貴族として、下々の忠義には応える必要があると思い、そのために冒険者となりましたわ。

 それに、事故とはいえ私のはだ……、いえ、何でもありませんわ!

とにかく、責任は取って頂かないと!

 ジル!私が手伝って差し上げると言っているのです!感謝なさい!」


「あ、えっと。はい。ありがとうございました。

 それで……どうしましょうか?皆さんジルさんとパーティーを組むためにやってこられたようですが……。

人数・役職・ランクのバランスは取れているので良いお話だと思うのですけど、いきなり全員と、というのはちょっと。

ジルさんにパーティーを組んで欲しかったのは事実だけど……、これは何か違う。

どうして、見事なまでに女の子ばかり……?」


 とりあえず自己紹介はしてもらったものの、その後どうしたものかと決めかねて思案を始めたお姉さんだったが、突如大会議室にもたらされた知らせにより、それは中断される事となった。

本来は僕自身が考えて決めるべき事柄だと思われるが、何となく場の雰囲気が発言を許さなく(下手な発言をすると、危機的状況に陥るという直感が……)、皆の視線とともにお姉さんへと期待が集められた形だ。


「失礼します!緊急の要件であります!お手数ですがこちらまでお越し頂けますか!」


「は、はい!

 皆さん、すみません。暫しここでお待ち頂けますか?」


 お姉さんが退席すると、中は沈黙に包まれた。僕も正直どうしてよいのか分からず、貝のように縮こまって戻りを待つ。注がれる視線が痛い。海の底に帰りたい気分だ。

 幸いな事にそんな忍耐の時は長くは続かず、直ぐにお姉さんが戻ってきてくれた。


「皆さん! 話合の途中で申し訳ございませんが、ギルドから緊急の依頼がございます。

 未踏の古代遺跡が発見され、そこには重要な武具が眠っていると推測されます。

 ギルドといたしましては、出来れば国からの介入がある前に調査を行いたく、緊急で冒険者を派遣したいと考えております。

 かなり難易度が高いと予想されますが、幸いな事にここにいる皆さんはベテランの冒険者の方々ばかりです。

 パーティーの試用期間とお考え頂き、一度共同で依頼に当たっては頂けないでしょうか?」


 こうして、急ごしらえのパーティーを組んだ僕らは、すぐさま古代遺跡調査へと旅立つ事となった。

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