~転生後 ジル③~
「ジルはどうしてそんなに本が好きなの?
それに、剣も習って、身体も大分鍛えているみたいだし。」
いつものように村長宅に入浸って読書に励んでいると、村長の娘さん(大たい僕と同年齢か、1、2歳上)が唐突に僕へ話かけてきた。
「突然だね。どうして、そんなことを?」
決行日を検討している最中、という事もあり、慎重に回答する。
「最近は家に居てもあまり違和感がなくなって来たけど、気になって。
何か、ジルが突然姿をみせなくなるんじゃないか、って気もするし。特に根拠がある訳じゃないんだけどね。
何かやりたい事でもあるの?」
中々いい勘をしているようだ。これが世に言う『女性の勘』という奴だろうか?
ここは慎重に言葉を選んだ方が……。と、いいながら、正直結構口下手な方なので不安が残る。前世でも『お前は言葉が足りなすぎだ。誤解を招く』とよく言われた。
「いずれ(街に出たら)色々な人との話合いや、交渉が必要になると思ってね。
場合によっては、偉い(依頼)人とも会話する事があるかもしれないし。
それには(街や冒険に関する)知識が必要だし、最低限読み書きが出来ないと(依頼書や契約書が読めなくて)大変だ。
剣に関しては、ただ単に(自分の身を)守れるようになりたいだけさ。
(冒険者になったら)どんな危険が突然訪れるか分かったものではないからね。」
「ジル……、貴方はそこまで(村の事を)考えていたのね!すごいわ!
私、貴方の事を見直しちゃった!」
どうやら、ごまかしに成功したようだ。感心されている理由がよく分からないが、まあいいだろう。
まだ、村長の娘さんは、身を乗り出して僕の顔を覗きこんだままなので、表情を変えないよう注意する。それにしても、顔が近いな?
「正直、最初はお父様もジルの事を警戒していたのだけれど……。
ほら、ちょっと前まで他の子たちと馬鹿な遊びに夢中になっていたのに、いきなり『本を読みたい』、だものね。何か別の意図があるんじゃないかって、つい疑ってしまうじゃない?
だから、『お前はジルに近づかないように』って言い含められていたの。
でも、真面目に取り組んでいるジルの姿を見て、お父様も考えを改めたみたい。
今では、その……、村の将来を任せてみてもいいか、なんて言ったりして……。」
そこで何故か顔を赤らめる。小ぶりな顔に載った大きな瞳がゆらゆらと揺れている。
村長の娘さんは村一番の美人と評判だ。お姫様のよう、とまではいかないが確かに、村の中ではずば抜けて整った顔している、と僕も思う。村の男たちが邪な目的で近づいてこないか警戒をする、という父親の心情は理解できるところだ。
「いや、僕の方こそ強引にお願いしてしまって申し訳無かった。お父さんに警戒されても無理は無いので、気にしていないよ。
逆に、それでも許可して頂いた事には感謝しても、しきれない位さ。
もし、何か不都合があれば、遠慮なく言ってくれ。
頼み事も……、僕に出来る事なら、何でも引き受けさせて貰うよ?」
「うふふ。ありがとう、ジル。あてにさせて貰うわね。」
そういって柔らかな笑みを浮かべる村長の娘さん。
うん。どうにか尋問を乗り切れたみたいだ。
暫くの間、目立たないよう注意しながら準備を進め、整い次第決行としよう。
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