~転生後 ジル②~

 突然の行動変化は他者の不審を招くため、ある程度緩やかに、それでいて着実に生活スタイルを変化させていった。家の手伝いは無難にこなしつつ、村の友人たちとは少しずつ距離を取り、遊んでいた時間を準備に充てる形だ。

 やらなければいけない事は主に2つ。この世界の知識を得る事と、最低限の戦う術を身に着ける事、だ。前者に関しては、まずは文字の読み書き習得から行う必要がある。まずは村では珍しい外からの移住者の中にいた識字者に頼み込み、教えを乞いた。その上で、村で唯一蔵書がある村長宅に入浸り、苦労を重ねながら少しずつ読み解いていった。当初、村長には不審の眼で見られていたが、暫くたつと無心に読書へと取り組む姿勢を認めて下さったのか、何も言わずにお薦めの本を差し出してくれるようになった。


「ジル、これも読んでみなさい。『徴税官 完全攻略マニュアル』は必読じゃぞ。」


 薦めてくる本の偏りには、多少違和感を覚えたが。『図解 冠婚葬祭』だとか、『徹底比較!狩猟と農耕』だとか。本人の趣味なのだろうか?

結果として、親兄弟を含め他の住人たちからは奇人として認識される事となったものの、これにより最低限の知識と自学自習の礎を築く事に成功した。

 もう一方、戦う術に関しては、家の手伝い(森の恵み収穫)時間を上手く活かして体力の底上げをするとともに、剣の心得があった元冒険者のおじさんに頼み込む事でこちらも基礎を習得する事が出来た。


「ふむ。まあ、一人前には程遠いが、とりあえず様にはなってきたな!

後は筋肉、筋肉があれば何でもできる。筋トレに励んで、そのなまっチョロい身体を改造だ!」


 それをベースに前世知識(といってもゲームや本から得たレベルのものだが)と併せ、地道に訓練をする事で、恵まれなかった体格をカバー出来るだけの素地を作り上げる事に成功した。

 おじさん推奨の肉体改造に関しては、局所的な筋肉増強は、全体のバランス・連動を阻害するので程々にして、なるべく自然に近い形、初動時に負荷が掛かるよう工夫をして身体を鍛え上げた。

 本当は、魔法が存在する世界のようなので、それも……と期待していたのだが、残念ながら村には魔法を使える人間がいなかったため、街に出てからのお楽しみ、となった。

 気付けば2年の月日が経ち、ある程度生き延びられる自信がついたところで、具体的な決行日を考えるようになっていた。

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