向付

【餃子と共同作業】

 自分が好きだからと言って、相手が好きとは限らない。恋の話とかではなく、人間関係の話でもない。そんな大それた話ではなくて、食べ物の話だ。


 今になって気づかされる。

 自分がおいしいと思ったものを人に食べさせたい。

 自分が作った料理でおいしいかったと感動させたい。


 僕が考えていたのはそればかりだったのではないだろうかと。

 そこには見えない相手に対する思いやりが欠けていたのではないかと。


 たぶんそうだったんだと思う。

 だから料理人として僕は失敗したのだ。


 本当に今さらだと思う。それでもこうして出会えて、それに気づけて良かったと思えた。だから今日は『やり直し』の料理を作ろうとメニューを決めた。


「今日はさ、餃子を作ろうと思ってね。ちょっと手伝いをお願いしたいんだ。どうかな? 手伝ってくれるかな?」


 ルナは僕の心の中まで分からない。知らないままに、エプロンを腰に巻かれて、キョトンと自分のことを指さしている。二人しかいないのに。


「もちろん! 今日は餃子の皮を包むのを手伝ってほしいんだ。それにね、餃子はいろんなアレンジができるんだよ。餡はもちろん、タレだっていろいろ――」


 そう。せっかく話せるようになったのだから、二人でたくさん話そうよ。何が好きとか嫌いとか。どうとしたいとか、したくないとか、なんでもいい。


「……今日は二人で究極の餃子を作ろう!」


 僕は半玉のキャベツをルナの前に突き出して、ニカっと笑った――。

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