問い陸

【一度だけのわがまま】

 彼女が優秀だってのは分かっていた。

 だってずっとそばで見てきたんだから。


「私ね……遠いところへ行くことになったの」


 彼女がそう言った時、僕は直感で「やっぱりか」とそう思った。


「それってどこ?」

「遠いところ。たぶんココには戻らないと思う」


 そう言わしめる理由は無いと言えば嘘になる。

 時には、僕のどこに魅力があるのか疑問に思うこともあった。

 今ここで彼女と離れてしまったら、確実に僕たちの縁は断たれてしまうだろう。なんとかして繋ぎとめておきたい。


「そっか……遠距離恋愛ってことか。でも連絡手段はいくらでもある。僕はここで待ってるよ。ここでずっと君を待ってる」


 と、彼女はここで大きく息を吐いた。


「それはフタヒロのためにも、私のためにもならない」

「待つのもダメなのかい?」

「私はフタヒロに一緒に来て欲しい。でもね、ここでの生活や仕事があることも分かってるわ」


 僕はすぐに返答できない。

 探偵業に転職して自由な時間も多くなったとはいえ、失うものは少なくないのだ。


「ねぇ、一度だけわがままを言わせて。全てを捨てて……私と一緒に来て」


 僕を見つめる彼女の瞳は潤んでいた。

 彼女の手が、ゆっくりと僕の方へ伸びてきた。

 その手を握った僕は、どう応えるべきだろうか――。

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