【この服を着ろと?】

 目の前で、ジェーンが微笑んでいる。


 こんなに幸せなことはない。

 ここのところ、お互いに忙しくて、なかなか二人の時間を持てなかったのだ。


 やっとできた、二人だけの時間。

 君が満面の笑みで僕を見つめてくれる。

 君のためなら、なんだってしてあげたい。

 心から、そう思える。


 ――と、ついさっきまでは思っていたんだけど――


 すまない。

 やっぱりムリだよ、コレ。


「似合う! 似合うよ、関川君!!」


 ジェーンが絶対に似合うと言いながら僕に着せた服。

 鏡の前で、言われるがままにポーズをとってみる僕。


 でも……ダメなんだ。

 今日だけは、君の願いをきいてあげることができそうにない。


「これ着て一緒に写真撮ろうよっ!」


 ああ、彼女の弾ける笑顔がまた可愛い。

 この笑顔を曇らせるなんて想像するのも嫌だ。

 嫌だけど、この格好だけは……。

  

 ああ……僕はいったい、どうすればいいんだ――。

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