第8話

世間様にとっては今日は休日なので、駅前も普段とは違った客層で賑わっていた。スーツや学生服に身を包んでいた彼らも家族や恋人、友人らと共に楽しげに歩いている。駅前はここら一帯では最も栄えている場所でもあるので、ここ近辺を生活圏にしている人にとっては休日を過ごす場所としてもってこいだ。俺たちが向かうライブハウスの通りには、大型スーパーやアクセサリー店のみならず、この間立ち寄ったファストフード店や映画館や家電量販店等々・・・。一日を過ごすには十分すぎるほどのラインナップが取り揃えられている。ただ、個人的にはあまり立ち寄りたくない場所と時間帯なので仕事が終わり次第、可及的速やかに帰宅したいが、終了時間が見えない案件なので如何ともし難い。顔見せと言っても具体に何をするかも把握していないし、店長との約束もあるので時間がずれ込んだら帰宅もままならないだろう。

「そういえば、他のメンバーの子達はどんな感じなんだ?」

 リーダーである石上とは顔を合わせ話をしたので、ある程度の為人ひととなりは分かっているつもりだが、他のメンバーに関しては名前と顔しか情報が無い。会ってから本人に直接聞くということも視野だったが、事前知識としてある程度知っていた方がスムーズにことを運べるだろう。

「プーさんはメンバーのこと、どれだけ知ってるんですか?」

「顔と名前が一致する程度だな。それ以外のことは特には知らん」

 すると、大伴は驚いた様子で何度も瞬きをする。

「なんだよ・・・」

「いえ、意外だなぁと」

「何が」

「顔と名前を覚えててくれたことがですよ」

 この程度で喜ばれるなんて・・・、期待値低すぎだろ。こちとらライブ映像だけで号泣したほどのハマりっぷりだぞ。

「仕事だからな。それに・・・ファンだから」

「・・・ふふ。そうでしたね」

 そう言って、年齢以上の色香を帯びた悪戯な笑みを浮かべる彼女は帯び魅力的で、陽射しよりも眩しく温もりを感じた。彼女と出会ってから心臓の拍動が速まることが多くなった気がする。全くもって、体に悪い。

「メンバーについてでしたよね。じゃあ、めいちゃんから・・・」

 そう言いかけて、話を中断した。陽気な機械音が彼女のポケットから響き渡る。どうやら携帯の着信があったようで、二、三歩離れた場所で応える。どうやら石上からの連絡だったそうで、『遅い』と一言で切られたことに戦々恐々としていた。

「や、やばいですよ・・・。みっちゃん、時間には厳しいんですよ・・・」

「そ、そうか。じゃあ、い、急がないとな」

「はい。Bダッシュしないとまずいです・・・」

 二人の額には、暑さとは無関係な汗が流れていた。




「遅い」

 開口一番浴びせられたのは、やはりそのセリフだった。ライブハウスの地下。初めて彼女たちのパフォーマンスを目にした場所で、俺と大伴は正座をさせられていた。大伴の言ってた通り、どうやらダンスレッスンだったようで上下ジャージに身を包んだメンバーを見ることができた。ファンとしてはライブ衣装や他所行きの格好よりも、こうした裏側の衣装を見ることの方が嬉しい。さらに、こうして美少女に正座させられていることも一つのプレイと思えばむしろ興奮してくる。

「・・・なんかコイツ、きもいんですけど」

 ・・・・・・・・・・・・エスパーなのかな?

 ともあれ、どんな状況も捉え方次第でどうにでもなるという教訓を身をもって感じ入っていると、ハリのある声が間に入るように滑り込む。

「まあまあ、それくらいにしてあげてよ、リーダー」

 スタイルの良い石上よりもさらに背の高い、いかにも快活そうなポニテの少女が仲裁に入ってくれた。彼女、石作いっさくめいは石上の肩をポンと叩き、位置を入れ替えるように俺たちの前に立つ。

「やあ、こんにちは。君が私たちのお手伝いをしてくれる人だよね?」

 高い身長が正座のおかげでより高く見えるが、不思議と威圧感や圧迫感は無く、見下ろされても嫌な気分一つしない。この人の人徳の為せる業なのだろう。

「ああ。初めまして、よろしく頼む」

「自己紹介した方がいいよね?それとも、後でみんなまとめての方がいいかな?」

 そう言いながら、周りのメンバーを見回している。大伴は隣で反省中で石抱かされていて、石上はまだご機嫌が斜めでいらっしゃる。後の二人は我関せずといった様子で会話に入る様子もない。

 ・・・本当に同じグループのメンバーなのか?まとまりがなさすぎる・・・。どんな経緯があって、このメンバーが集まったのかが全く見えてこない。くじ引きでももうちょっとまとまりのいい奴が集まるだろう。

「そうだな。じゃあ、とりあえず自己紹介だけやっちゃうか」

 立ち上がりながらそう切り出すと、反省中の大伴が立ち上がり遠慮がちだった二人が前に来て、俺を要とした扇状に並んだ。

 いざ五人が並ぶとジャージ姿とはいえアイドルなんだなぁ、という小学生並みの感想が浮かぶ。地味なジャージでも華があるというか何というか・・・。立ち位置だけで見ればハーレム状態なのだが、この場の空気からはそんな甘い感情は微塵も感じない。なんでこんなギスギスしてんの・・・。

 数回咳払いをして気を窺い、やっとのことで自己紹介を始めた。

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