第5話 自称大人な鬼っ娘ろりが魔導の師匠になりました
ガチムチドラゴタートルとベルゾレフの戦いを見た日から三日後、ファウストはベルゾレフの家の一室にてベルゾレフによる魔物の講義を受けていた。彼は元来知識に貪欲な面がある上、三日前の圧倒的なまでの戦闘を見た影響か、はたまた二日前のマッパーに凶兆を暗示された影響か……、ベルゾレフに積極的に質問し、この三日間でどんどんと知識を我がものとしていっていた。
「それでは今までの授業内容をクイズ形式でお
「はい!」
ベルゾレフはそう言って島の人々が簡単な読み書きや計算を習う簡易塾で使う、ダンベル村の雑貨屋で購入したホワイトボードに魔導ペンーー『光魔石』という光属性の魔力が宿った魔石をインクに、文字を描く魔道具(手で擦れば消える)ーーでクイズを書き、ホワイトボードの対面に配置された座席に着席しているファウストに出題した。
「では第一問!一般的に初心者用魔物とされている御三家と言えばなに!そしてその魔物の特徴と弱点は?」
「ウルフ、スライム、ゴブリンの三種です。
ウルフの特徴は見た目は狼とほぼ同じで見分けがつけにくいですが、魔物全体の特徴である赫眼により見分けることが可能。弱点は脚で、少しの傷でも強さは著しく低下します。
スライムはぷるっとした可愛らしい見た目と魔物としては例外的な赫眼ではなく碧眼であることが特徴の半液体型の魔物です。弱点は体内のスライム核と呼ばれる赫色の球体状の核で、それを破壊すれば一撃で倒せます。
ゴブリンは十歳の子供の背丈と同程度の身長の子鬼です。
体色が緑の他、オークと同じく全ての種族と交配できる全交配種であることが特徴です。弱点は特にありませんが、知能が低く、単体ではとても弱いです」
「んん〜 、正解!パーフェクトだよ!
では第二問!」
と言ったところでチリーンという呼び鈴の音が響き、来客を知らせた。
「っと失礼。ちょっと出てくるよ!」
「分かりました。予習して待ってますね」
ベルゾレフは『その熱心さ大好き!』とサムズアップして玄関へ向かった。
◇
数分後。ファウストが静かに魔物の知識の予習をして待っていると、部屋の外からなにやら『放すのじゃ!』や『なぜ我がそんな事をしなければならんのじゃ』や『うっ、それは……でもそれとこれとは話が別じゃろう…』や『うぅ、分かったのじゃ……』という幼女特有の高めの声が聞こえてきた。
(完全に弱み握られてるじゃんまだ見ぬ幼女(仮)よ)
魔物図鑑を眺めて暗記しながらファウストはまだ見ぬ幼女に同情していた。まもなくしてベルゾレフと幼女(仮)が扉を開けて入室してきた。
「いやぁ、お待たせ!
突然だがファウストくんに会わせたい人物がいるんだ」
「貴方の後ろにいる幼女のことですか?」
そう返答すると突如机と椅子が捻くれて槍となり、ファウストを飲み込もうとした。ファウストは上から包み込むように襲いかかってきた机が変形した槍を掴んで身体を持ち上げて飛び上がり、逆立ちの要領で包囲網を脱出した。
「
ファウストは脱出した空中逆立ち状態のまま依然襲い来る机の槍に風の斬撃の渦を放ち、机と椅子だったものを粉々に切り裂いた。体勢を整え、足から着地したファウストはベルゾレフの横にいる幼女(確定)を見た。
「会って早々魔法で攻撃するなんてやんちゃな幼女だな」
「我は幼女ではない!ぬしや此奴よりも大人な年上のお姉さんじゃ!」
幼女(自称年上のお姉さん)は目の前にいたベルゾレフを「邪魔じゃ!」と言ってどかしてファウスト、ベルゾレフの順に指を指して怒り心頭にまくし立てた。
「それにぬしの方が見た目的にもガキではないか!年上に対する礼儀もなっておらんし!バーカバーカ愚か者ー!」
ファウストは捲し立てられながら眼前の幼女を足の先から頭の先まで眺めた。
身長は145〜147センチメートル程度。十一歳女児程度の身長である。新雪のような柔らかでサラサラな白髪の毛先は仄かに赤みを帯び、そこからのぞく細く黒い二本の円錐型の角。透き通る蒼穹のような綺麗な碧眼。白くモチモチとして柔らかそうなマシュマロの頬に形の整った目鼻立ち。可愛らしさと動きやすさ両方を兼ね備えた、白を貴重とした花柄のミニスカ和服から覗く細い手足は一種の芸術品だった。総じて、彼女は紛れもない美幼女である。
「悪かった。訂正するよ」
突然の謝罪の言葉に鳩が豆鉄砲を喰らったような心境になった幼女(自称お姉さん)は一瞬固まり『なんじゃ、素直な少年じゃないか』と感心しそうになるが次の言葉を聞き一瞬前の自分をぶん殴ってやりたくなった。
「君は幼女じゃない。美幼女だ」
「結局幼女は幼女ではないかぁぁぁああああ!!!」
「そう!君は幼女だ!」
「ようし!ぬし、我をおちょくっておるな?ならば戦争じゃ。その腐りきった
「HAHAHA、まぁまぁ落ち着いてベルさん。ここは大人な対応を」
ベルゾレフは怒り心頭の幼女の頭をポンポンと軽く叩いて宥めた。そう言われてハッとした幼女は咳払いをして仕切り直した。
幼女はベルゾレフに子供扱いされたことに気付かず、ムフフと嬉しそうに笑い、
「そうじゃな、大人な我が引かんとな」
と、幼女はえへんと腰に手を当てて威張った。
(なにこの可愛い生き物)
ここガチムチアイランドで暮らしてまだ今日を入れて四日しか経っていないが、ゴリゴリの筋肉に囲まれて過ごしたこの四日間は想像以上にファウストの精神に負担をかけていたようで、感情表現豊かで表情がコロコロ変わる可愛らしい幼女の姿にファウストはすっかり癒されていた。
「それではまずは自己紹介といこうか。
我が名はベル=ヴェルク・オールシュ・ヴァイズ。魔神やら天災やらと呼ばれておるわ」
「(魔神?この世界にも厨二病患者っていたのか)俺の名前はファウスト・オルズ・レガリアだ。さっきはからかって悪かったな」
ファウストは微笑ましいモノを見る目で自己紹介した。
「ふっ、もう気にしとらんよ。我は大人じゃからな(レガリア?はて、どこかで聞いたことがあるような……まぁそのうち思い出すじゃろ)」
ベルはファウストの名に聞き覚えがあるなと感じながらも、一旦仲直りを兼ねて握手した。
「それで、ヴァイズーー」
「ベルでかまわんよ」
「……ベルと会わせたかったみたいですが、一体どのような理由で?」
「いや私って実は魔導を使えない体質だからさ、あまりそういう知識はないんだ。
そこでタイミング良く野暮用で島に訪れたベルさんに頼んでファウストくんに魔導の修行を付けてもらおうと思ってね。
さっき自分でも言ってたけど彼女は魔神、魔導を極めすぎて神の領域に踏み込むほどの人だから魔導に関して右に出るものはいない才女でね、これほど魔導の教えを請うに相応しい人はいないと思ったんだ」
魔神……魔導の真理に至り、天啓より賜りし特殊な儀式または試練を遂げ、代償を払うことで神格を得た魔導師。
眼前にいる鬼っ娘幼女がそんな大物だとは思ってもみなかったこととベルゾレフが魔導を使えない体質であることにファウストは驚嘆した。
(ということは三日前見た戦いで使ってたのは魔導じゃなくてただの魔力操作技術だったってことなのか?)
「ということじゃから、これからビシバシ鍛えて我の弟子と胸を張って言えるぐらいにはしてやるから覚悟するんじゃな」
「……はい!」
ファウストは三日前のベルゾレフの戦い方について疑問に思うところはあるが、ベルとの魔導授業の中でその答えが見つかるだろうと思って質問は飲み込んだ。
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