6
田鶴が用意していたのは、呼び出しの手紙だった。
今の
ディアー(スペル忘れました) にいなサン
パネルのこと、それから伊波のことで、急ぎの相談があります。放課後、図書室で待ってます。時間は取らせないので、どうかお願いします。
From(こっちは余裕で書けます)
幹人というのは、田鶴の名前だ。久しぶりに見たせいか、一瞬誰のことか分からなかった。
「これなら、どんな用事があっても来てくれるはずだぜ!」
うん、それは分かった。
そんなことよりも、Dearが書けていないことが衝撃的で。
無理せず、○○へ、○○より、で統一したほうがいいような……。
「バカヤロウッ、わざとだよ!」
「わざと?」
「そうだ! つまりだな、
「キャッ、Fromは英語で書けるのに、ディアーは書けないのね! きゃわいい♡」
……ってことよ! お前には難しかったかなぁ、俺の恋愛テクニック」
田鶴はふふんと得意げな顔をして、誰にともなく手を振っている。なんだろう、イラッとする。
「ま、それは置いといて。俺はこれを、彼女の下駄箱にぶち込んでくる」
「おう、行ってらっしゃい」
「いいか? 約束の場所に行くのは、お前だからな」
「なんで」
「なんでじゃねえ! 察しろ、俺の心遣いを!」
6時間目終了の合図を聞くと同時に、田鶴は廊下へ出て行く。
アイツ、ホームルームの存在を忘れていないか?
案の定、ばったり出くわした先生につかまって、渋々戻ってきた。やれやれだ。
ホームルーム終了後。風のように颯爽と駆け出した田鶴を見送って、俺は教室に残る。席に座り直して、持ってきていた小説を意味もなくバラバラめくる。気まぐれに文字を目で追っては、すぐに落ち着かなくなって本を閉じる。頭の中は、にいなのことでいっぱいだ。他のものが入り込む余地は無い。
にいなに会ったら、まず何て言おう。
「やあ、来てくれてありがとう」?
いやいや、誰だよ。そんな話し方、したことないだろ。無難に「お疲れ様」でいいのかな。
で、その後は……。
彼女はきっと、田鶴がいるものだと思って来るはずだから、そこの説明がいるよな。えーっと、不審に思われないように、納得のいく話をしないといけなくて。
あーダメだ。頭がパンクする。
髪をわしゃわしゃっとかき回して、ふっと顔を上げる。
「あ、イナミくん……」
「にいな!? んじゃない、望月さん!
な、んでここにっ!」
驚きすぎて、盛大に口を滑らせてしまった。慌てて言い直したけど、100パーセント手遅れだ。彼女はポカンと口を開けたまま、まばたきもせずフリーズしている。そりゃそうだ!
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