3
〈注意!〉
名字の伊波で呼びました。
名前のイナミではありません。ごめんなさい。
本当に申し訳ないです。
「…………は?」
でかでかと書かれていた文章に、開いた口が塞がらない。
「これ、お前のために作ったんだぜ。名前と名字が一緒だと、何かと苦労するだろ?」
得意げに胸を張る田鶴。
「や、まあ、うん。そうだけど」
「驚いたか! 俺とにいなサンからのプレゼントだ」
「みなさん、拍手をお願いします」
司会進行役の先生の言葉に、あちこちから拍手が送られてくる。正直、嬉しくない。ありがた迷惑ってやつだ。会話中にこんなパネルを掲げられるなんて、毎回口で断られたほうがマシに思えるレベル。
全て回収して、粉々に粉砕したい。んで、燃やす。
だって、あの文章。悪意あるだろ。
俺にしつこく迫られて、嫌がっているって感じがすごくする。
それに、何もしていないのにフラれているみたいじゃないか。
「集会で配るために、急ピッチで準備したんだ。途中で材料が足りなくなったりしてさ、焦った焦った」
田鶴はのんきに製作秘話まで教えてくれたけど、俺はそれどころじゃなかった。この忌まわしきパネルをどうやって処分しようか、そればかり考えてしまう。
まず、第一に回収の問題がある。俺が1人ひとり回って集めるのでは、効率が悪い。やはり、トップを動かすしかない。にいなに頼んで、全てのパネルを手元に。それしかない。
となれば、善は急げ。にいなと会う約束を取り付けよう。
全校集会後。
これみよがしにパネルを見せてくる生徒たちを無視して、彼女が出てくるのを待つ。人でごった返す廊下の隅で、目を光らせる。
しばらくすると、一際ガタイのいい男が姿を現した。生徒会執行委員の大久保だ。にいなのボディーガードとのたまって、ちゃっかり隣をキープする要注意人物だ。
彼が出てきたということは、にいなもそろそろ来るな。早くなる鼓動、ブルブルと震える体。緊張してきた。立ち止まっていられず、一歩二歩と体育館に近づく。
「にいなの言う通り、やっぱりいたな。伊波」
パネルをポンポンと叩いて、名字呼びアピール。
これ、この先の学校生活で嫌というほど見るんだろうな。
「いたら悪いかよ」
「悪いね。だって、これじゃにいなが出てこれない」
「どういうこと?」
「そのままの意味だよ。俺は、にいなに頼まれてここにいる。お前が待ち伏せしてないか、確認してきてほしいって」
怖がってたぞ、と大久保は続ける。
怖がるって、なんだよ。俺が怒りに身を任せて、大暴れするとでも思っているのか?
気がつけば、冷静になっている自分がいた。
「ああ、そう。つまり、望月さんは俺に会いたくないってこと?」
自分で口にした途端、鼻の奥がツンと痛くなった。
油断したら涙が出そうで、下唇を噛みしめる。
「まあ、うん。ぶっちゃけると」
「分かった。じゃあいい。
パネルのこと、ありがとうって伝えて。お忙しいでしょうに、俺のためにどうもって」
冷静さは長く続かなかった。最低だと思いながらも、自分を抑えられず、嫌味を言ってしまった。
それをにいなが聞いているなんて、思いもせず。
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