ふと顔を上げると、前から白いパネルのようなものが回ってきているのが見えた。表に何か書いてあるみたいだけど、内容までは確認できない。

首から下げる仕様になっていて、早速みんなが使っている。

と、前にいるクラスメイトが気になることを言った。


「伊波には必要ないから、渡すなよ」


え……?

思考が停止した。確かに、俺は友だちが少ない。

いてもいなくても良いくらいの存在感しかない。

だけど、こんなにあからさまに避けられる覚えはない。もしかして、いじめ……?

ツーッと、額から汗が流れる。そうだ、アイツに聞こう!

キョロキョロと辺りを見渡して、田鶴の姿を探す。

……いない。何で!?

打ち合わせとか何とか言って、俺より先に来ているはずなのに!

パニックになりながら、落ち着きなく歩き回っていると先生に注意された。仕方ないだろ!緊急事態なんだから!


「足りないところはありますか? 手元に無い人は教えてくださいね」


にいなの声に、気がついたら手をあげていた。

すると、近くにいたクラスメイトたちが慌てて俺を押さえた。いや、何でだよ!

やっぱり、いじめなんだ。あのパネルには、にいなのサインとかメッセージとかが書いてあって、俺以外のみんなで独占するつもりなんだ!

酷い、酷すぎる。人間のすることじゃない。

もうどうにでもなれ!

怒りで頭の大事なネジが外れたようで、俺は全校生徒の前で恥をかくことになる。

そうとは知らず、大声で叫んでいた。


「俺のところに回ってきていません。にい……、生徒会長!」

「イ、イナミくん」


にいなが困ったように眉根を下げた。動揺しているのか、わたわたしている。小動物みたいな動きだ。

可愛いけど、可愛いけども!

その感じ、イジメの事実を知っていたように見える。そんな……。


「おおおおい、伊波ッ!」


がっくりと膝をついた俺の元に、今更ながら田鶴がすっ飛んできた。その首には例のパネル。小脇にも数枚抱えている。にいなの手伝いで、配り歩いていたのかもしれない。


「田鶴、どういうことか説明してほしいんだけど。俺を仲間外れにしたのはお前か?」

「ち、ちちち違うってば。集会前に言おうと思ってたことなんだけどな、言えなくてよぉ。ほら、打ち合わせがーって話したろ」

「それが関係してるの?」

「そう、そう、そうなんだよ! てか、にいなサンの話聞いてたか!?」


田鶴がにいなの名前を呼んだことが気になるけど、それは後で問い詰めるとして。

にいな、何を話していたんだろう。考え事っていうか、過去を振り返って懐かしんでいたもので、聞いていなかった。これは俺が悪い。


「だよなぁ。聞いてたら、俺の分が無いなんて、騒げるはずねぇからな」

「……え?」


首をかしげた俺に、田鶴がパネルを1枚差し出した。みんながもらっていたやつと同じものだ。


「そこ、読んでみ。多分、絶望するぜ」

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