第24話存在の重み

「かわいりょうた……」


突然のことだった。身が震えるような感覚に襲われて、授業を抜け出した。河合亮太その名前を僕は知っているのに知らない。彼は時代の親友だ。なのに何かを忘れてしまったような虚無感とただ流れる涙に自分がわからなくなった。


「どうなってんだよ」


校内のどんな場所に行ったって落ち着ける場所はなくて、どこに行っても何かを忘れてしまったような感覚に締めつけられる。


「おい、晴人」


中村に止められる。その顔には若干の汗がみられて、走り回っていたことがわかる。


「お、おかしいんだ。中学校時代の親友のことを突然思い出して、そしたら何か大切なことを忘れてるような気がして、涙が止まらないんだ」

「それは……亮太のことか」

「どうして中村が亮太のことを……」

「はぁ……そっかぁ……そうだった亮太は死んだんだった」


一瞬だけ思い出してまた消えた。

意識と一緒に僕から消えた。

起きた場所は保健室のベッドでそこには中村だけが静に座って僕が起きるのを待っていたみたいだ


「どうしてここに」

「覚えてないのか」

「なんにも」

「お前覚えてるかドッチボール大会のこと」

「当たり前だろ僕が企画したんだから……あれ?でもなんで中止になったんだっけ」

「っ!お前病院行けよ」

「どうして」

「いいから行けよ絶対」

「わかったよ放課後行ってくる」


どうしたんだ中村は。別に体のどこも悪くないのに。夢にLONE送っておくか。

とにかく放課後僕は中村と病院へ向かった。対応してくれたのは30代後半の男であんまり感じの良くない人だった。


「それで今日はどういったご用件で」

「実はこいつ1部記憶を失っているようでして」

「何か心当たりはありますか?頭を打っただとかストレスを強く感じることがあったとか」

「親友が亡くなっています」


中村が淡々と僕の知らない話をする。

亮太が死んだ?交通事故?それに同じ学校だった?何を言ってんだ。そんなわけ……ないのにありえないのに枯れたはずの涙がまた頬をつたう。


「そうですか。心配はいらないですよ。嫌な記憶を閉じ込めているようですので、病気の心配はございません。今は辛いかも知れませんがこのような場合本人がしっかりとそのことを思い出して受け入れるしかないですから周りのサポートが大切です。」

「わかりました。ありがとうございました」


一時的なものだそうで検査はせずに病院を出て中村からことの経緯を聞いた。だけど思い出せることはなくただ、喪失感が残っている

こべりついて離れない感情は学校にいても住んでる街に戻っても小さな公園にいても強く感じ取れて、誰かがいた気がするのにやっぱり顔も声も思い出せない。それはきっと亮太なんだろうけど実感なんてわかない。中学卒業以来していないはずのLONEの記録を読み返しながら家路につく。


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