第23話今日が最後の日

「え?どうゆうこと」


理解できなかった。母さんが発した言葉を。

頭がクラクラと揺れて立つことさえ不安定になる


「ねぇ嘘だよね」

「……」


無言の肯定。

今日だって元気だった亮太が死んだ。

そのことが信じられなくて悪い夢を見てるようで、涙なんかでなくて、ただ絶望感に晒されてるだけだった。


「今日はもう寝なさい」


寝られるわけがないだろ。母さんの配慮だってわかってるのにどうしてそんな呑気なことを言うんだと叫びたくなって出掛けた言葉は母さんの涙で詰まった。母さんが悲しくて泣くところを初めて見た。母さんはいつだって誰にでも優しくて涙を流す時は嬉しい時だけだった。

もう僕には何もする気力が湧かなくてベッドに体を沈めた。


寝られなかった。寝てしまったら壊れてしまいそうな気がして、脳が亮太の死を整理してしまうから。まだ受け入れたく無いから。


「今日は学校休もう」


スマホの通知音は昨日の夜からずっと鳴っていて

数字がどんどんと増えていく。このまま腐って自分も死んでしまいたい。たった1人の親友だったんだ。母さんも今日は休んで良いと言ってくれて僕は寝ないようにベッドに沈んでいた。

時刻は8時半を回っていた。本来ならもう学校についているころだ。


ピンポーン

そんなときだった。家のチャイムが静かな部屋に響いたのは。誰だよ。とぼとぼと疲れきった体を動かしてドアをガチャリと開く。


「待ち合わせの時刻過ぎてるよ」

「夢どうして……」

「今日を逃したらもう晴人がいなくなっちゃいそうだったから」


夢の目の下は赤く少しだけ腫れていて涙を流した後が残っていた。そんな状態にも関わらずいつも通りの制服でなんとかつくった笑顔と遅刻への怒りの表情をつくっていた。


「で!まだパジャマなの」

「いや、今日は休むから」

「絶対ダメ」


どうしてだよ。親友が死んだんだぞなんで許してくれないんだよ。彼女だろ。


「晴人は言ったよね私の強さを好きになったってだから私は晴人に認めさせにきた」

「なにを」

「河合くんが亡くなったってこと」

「そんなのわかってる」

「わかってない!今日寝てないでしょ……それに見てたらわかるよ晴人の目は誰も見てない」


どうしてそんなに強いの夢は。

僕には受け入れられないよ。


「晴人のお母さんいる?」

「仕事に行ったけど」

「朝ごはん食べた?」

「食べてない」

「じゃあ私が作ってあげる。だから顔洗ってきなよ」


なんでだろうな。夢と話してるとだんだん涙が出てくる。優しさにとかされてるみたいなのに亮太の死を認めさせられてるような感覚になる。

鏡に写る自分の目は確かに誰のことも捉えてはいなかった。それに顔からは生気がなくなっている。

とにかく顔を冷たい水で覚ましてタオルでふく。


「ご飯もうちょっと待ってて」


意外にも夢の手つきは慣れているものでテキパキと味噌汁を作りながらシャケを焼いて玉子焼きを作るという同時作業を並行して行っていた。ご飯の匂いは昨日の夜を食べていなかった分余計に食欲を刺激させられてグゥ~と腹がなる。


「お待たせできたよ」

「ありがとうおいしそう」

「おいしそうじゃなくておいしいからね。早速胃袋も掴んじゃうぞ」

「あはは……いただきます」

「何その苦笑い」


夢の料理はほんとにおいしかった。実際なんとなく絶対おいしいだろうなとは思っていたが腹も空いていたのでバクバクと無言で食べていた。夢は満足そうにその様子を見ていた。


「ごちそうさま」

「お粗末様でした。良かった食欲はあるみたいで」

「昨日の夜から何も食べてなかったから。あとおいしかったよ」

「ありがとうまた作るね」

「それは楽しみにしてる」


いつの間にかいつもみたいに笑っていた。自然と笑顔がこぼれていた。夢には感謝しかないな。


「そうだ学校行かないと」

「ううん。良いよ行かなくて私も休むつもりだったから」

「え?」

「一応待ち合わせ場所で時間まで待ってたんだけど晴人が来なかったら家に行こうと思ってたから」

「でも、さっき今日行かないとダメだって言ってたよね」

「違うよ。今日を逃したらダメって言ったんだよ。だけどもう晴人は私を見てるから目的は果たしたの」

「じゃあ今日はどうするの」

「晴人眠たいでしょ寝ていいよ。ずっと隣にいてあげるから何か辛い夢をみたら抱きしめてあげるから」

「夢……ありがとう」


とっくに体は限界でベッドについたらすぐに寝てしまった。これでもう亮太の死を本当の意味で認めることになる。だけど隣に夢がいてくれるなら耐えられる気がした。

どれぐらい寝ただろうか窓からさす明かりはオレンジ色だ。目を開けた先には夢がニコニコしながらこちらを見ている


「おはよう」

「おはよう」


両手に感じる温もりは夢の手だった。


「これ僕が握っちゃった?」

「右手はそうだよ」


じゃあ左手は?なんて野暮なことはさすがに聞かず夢の優しさに浸ることにした。

亮太の死を悲しむにはまだ実感がわかなくてどうなるかやっぱりわからないけど、もう僕には亮太意外の人達がいる。少なくともこの笑顔にこれまでもこれからも救われてるだろうから僕がこの笑顔を守りたい。できるなら一生


「晴人……」


あぁそれでもやっぱり心でどれだけ押し殺しても

悲しくてしかたないよ。亮太だけなんだよ親友だと思えていた存在は、どうしてあんなに優しくてかっこいい奴が死んじまうんだよ。

ようやく決心ついたんだぞ。亮太の恋を応援するってできること全部やるってなのにどうしてなんだよ。繋がれた手に力を込めてしまう。


「もっと泣いて良いんだよ」


耳元で囁かれたその言葉にコクルが外れたみたいに嗚咽と涙を流した。


「りょうたぁ、嫌だよぉお前の声も顔もこれからだって覚えていたんだよ。僕は誰とあの場所でサンドイッチを食べれば良いんだよ。」


相づちを打ちながら静に心の叫びを聞いてくれる夢までも涙を流していたことに僕は気づいた。

おでこを合わせて伝わる温度と両手ごしに伝わる温度は少し違うけれど共有している感覚が心地よかった。

次の日から学校に登校して、亮太のいない日々に涙した。でも今日は本当にお別れの時だ。

亮太の葬式はたくさんの人達が訪れた。小学校からの友達や高校までの友達。それに先生方や外部コーチまでもが哀に包まれた。


「亮太今までありがとうな。お前と出会えたことは本当に僕の人生を変えてくれた。ほんとにほんとにありがとう」


最後のその瞬間だけは満面の笑みで送り出した。

葬式が終わり、夢と愛衣と春風それに中村と長谷川さんの5人も話した。


「私ね……河合くんが好きだったの」


春風さんの涙声で告げられた一言。

迷ったけれど亮太の想いを届けたい。こんな形になったけど全力で応援したかったから


「亮太も春風のこと好きだって言ってたよ」

「そっかぁ両想いだったんだ」


この場を離れたくなくて思い出を話し合っていずれ惜しむようにそれぞれが家へと帰っていった。


「晴人ちょっといいか」

「どうした中村」

「山本から一言頼まれてな、あの時はごめんなさい本当はずっと亮太に救われてきたってよ」

がなんで僕に?」

「お前大丈夫か?」

「えっとどういうこと?」

「それはこっちのセリフだ。まぁいいや伝えたからな、じゃあな」

「じゃあね」


僕は家には向かわず学校に向かった。どうしても今日あの場所に行きたかったから。

やっていないはずの購買を通るといつものおばちゃんがいた。


「来ると思ったよ」

「おばちゃん……」


出されたサンドイッチは僕のお気に入りと亮太のお気に入りのカツサンドだった。


「よく覚えていましたね」

「2人は同じ物しか頼まないからね」


ありがとうございますと伝えてベストプレイスにひとりで座った。僕は何も喋らずにその場所を味合うようにサンドイッチを食べてしばらくその場所に座った。

お世話になりました。

もうきっとここにはこない。

カツサンドおいしかったな。

亮太との最後を過ごす今日に全部終わらせて思い出だけを僕が連れていく。

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