第21話初恋を終わらせて再熱を

「2人は付き合ったんだね」


私、小林愛衣は目の前で腕を組む晴人と夢の2人を見て心を殺して笑いかける。


「「うん///」」


照れた様子で声を揃える2人は本当に付き合ってるんだろうなと実感してしまう。晴人に僕はもう好きじゃないと言われたときよりもずっと心は沈んでいる。笑顔だってちゃんと作れている自信がない。だって目の前に好きな人とその彼女が幸せそうにしてるんだよ。


彼女が知らない人なら良かった。どうして大切な友達なの、心が苦しくてしかたない。


「そっかじゃあ私はこれから1人で登校するね!」


無理矢理つくった高い声ももしかしたら白々しものかもしれない


「なんで!私は愛衣とも一緒に登校したい」


どうしてそんなこと言うの。私は夢を嫌いになりたくないの。夢に嫉妬してる自分が醜くてどんどん嫌いになりそうなの……

お願いだからそんな風に笑わないでよ。

お願いだから無邪気に言わないでよ。


「それは無理だよ」


感情を殺した声を2人はどう思ったんだろう

晴人なら私の気持ちを知ってるから察してくれるよね。


「そうだな僕も夢との時間を大切にしたい」

「晴人///」


願ったはずの言葉に心が引き裂かれるような気持ちになるのはぜんぶ、ぜんぶ、恋のせいだ。

学校に着いても気持ちは晴れなくて逃げるように女友達の元へ向かう。

あぁやっと楽になれた。2人とはしばらく距離を置きたい。

初めての気持ちでわけがわからない

でも、そうしないと自分を保っていられない。

放課後久しぶりに1人で帰る道は何もかもが真っ暗な気がして、自分の歩幅すらわからくなっていた。


「愛衣」


呼び止められた声は晴人のものだった。


「晴人……どうしたの」

「この前事件で話聞けなかっただろ」

「もう良いよ」


本当は良くない。覚悟を決めるのだって大変だったんだ。過去のことを知られるのは怖かった。だけど、晴人だから言おうと思った。でも、私の話を彼女のいる晴人には話せないよ。

私は早歩きで電車に乗り込んだ。


「待てよ」


帰り道は反対方向なのに平気で乗り込んでくる。

どうしてよ、これ以上心をかき乱さないでよ後もう少しだから、そしたらいつも通りの小林愛衣に戻るからお願いだから優しくしないでよ。


電車が最寄り駅に止まると私は全力で走る。晴人よりはずっと運動はできるからまくことは簡単だった。切らした息を整えて、帰り道を歩く。


「あっれぇ愛衣じゃん」


聞き覚えのある声に体がビクリと反応する。

それに続くようにもう2人の声が体を吹き抜ける


「……」

「無視とか酷くない~私達同中じゃ~ん」

「……」

「ねぇ金貸してくんない」


声がでない。体が動かない。顔が上げられない。


「今日はひとりなん。この前の冴えない男は」

「もしかして~また告白されてふったの」

「えぇ~可哀想」


ふってなんかいない。どっかって言えばフラれたのは私の方だ。


「あの男のLONE教えてよ」

「ど、どうして」

「この写真送るから」


突き出されたスマホ画面には中学校の頃の私が体育倉庫の中で水と泥をかけられた、汚らしい姿だった。


「他にもあるよ」


今度は動画だった。2人に腕を捕まれて顔や体を蹴られたり殴られたりしている私。泣きながら小さい声でやめてと抵抗している私。思い出したくもなかった過去がフラッシュバックして吐き気がしてくる。目を閉じて、両手で顔を押さえる。


「大丈夫か」


ふいに後ろから聞こえてきた声は私の大好きな人の声。

ねぇ……どうしていつもこんな時ばかり私を助けてくれるの。


「あっれ~お前冴えない男じゃん」

「俺の名前は大宮な」

「そんなのどうでも良いしあのさ金くんね」

「嫌に決まってんだろ」

「愛衣の写真と交換は色んなのあるよ」

「お前らさいい加減にしろよ」

「何が?」

「お前みたいなケバい化粧しかできない性格最悪女が俺の幼馴染み苦しめてんじゃねぇよ」


晴人の声はドスの聞いた低い声で怒りが含まれていた。


「は?ふざけんなよこの写真と動画ネットに拡散するぞ」

「そんなことしてみろ叩かれるのはお前だ。逮捕されるのもお前だ。頭の中まで残念だとわな。それにそんなことしてみろ絶対許さないから」


晴人は3人相手にも怯むことなく。スマホを取り出して動画を流す。今までの会話全てが録音されていた。


「これ警察もってけば捕まるけどどうする」 

「ふ、ふざけんなし、消せよ」

「それはお前らが先だろ」


大きな舌打ちをした女達はスマホを取り出して全部消していく。LONEに送ったものも全部。


「次もしも愛衣に何かしたら許さないからな」


女達はわかったよと吐き捨ててこの場を去った。


「なぁ話聞かせてくれないな」


晴人の声はどこまでも優しく私を包みこんでくれる。だから私は決心した。もう一度あの場所で過去を告げると

緑坂公園につく頃には2人の距離はいつの間にかいつも通りに戻っていた。私は胸の前で拳を握って言葉を絞りだす。


「私はねーーーーー」


小学校、中学校の話。私はいじめられていた。

理由は優秀だったから。自分で言うのはあれだけど私はモテてしまった。それに勉強も運動もできて周りから見たら目の上のたんこぶだったんだと思う。それでも中学年くらいまでは私が陰口を言われることはあっても直接私に何かをしてくることはなかった。


だけどあるとき1人の男の子が告白をしてきた。その子は女子から凄い人気があった。その子は自信があったのかみんながみてる前で堂々と告白してきた。嬉しくないわけではなかった。だけど私は晴人のことが好きだった。断ってからいじめが始まった。最初は小さいことだった。ものが無くなったり、ハブられたり、だけどどんどん直接的になってきて、酷いことをノートや机に書かれたり、池に突き落とされたりそれでも小学校までの辛抱だと我慢した。けど、そんなことはなかった。中学校でも私は相変わらずモテてしまった。小学校の時にいじめてきた子も同じ中学だった。


私は中学校で耐えられなくなって、不登校になった。そんなときお母さんに言われたの高校は晴人くんの行く場所にしないって。その言葉が私の希望になって、毎日学校に行かない分勉強して、努力して、雪下高校に受かった。最初は怖かった。またいじめられるかもって。だけどいじめられなかった。それは晴人のおかげなんだよ。


晴人と恋人の噂が流れてくれたおかげで、私はクラスの女子達に好きだと伝えたからいじめられなくてすんだ。愛衣には好きな子がいるから安全だって、私はやっと普通の学校生活を手に入れられたの。そのために私は晴人を利用したんだ。


「そうか」


全部話しちゃった。これで嫌われてもしかたないかな。でも止まらなかったからそれでいいの。


「最低でしょ」

「そうだな……いじめた奴らが」

「え?」

「だってそうだろ愛衣は何も悪くないんだろなのに勝手に嫉妬していじめるとか最低だろ」

「私じゃないの?私は晴人を利用したんだよ」

「その利用は誰かを傷つけたのか?僕は少なくともそれで愛衣がいじめられないなら良かったと思ってるよ」


そんなこと言わないでよ。私を拒絶してよ。

じゃないと諦められなくなっちゃうよ。

どうしても手に入れたくなっちゃうよ。


「愛衣?」


また、涙を流しちゃった。ズルいよね私。

まだ高校生活は3年間近くあるんだ。私はやっぱり諦めらめないよ。


「晴人、私やっぱり諦められなくなっちゃった。覚悟しておいてね」


きょとんとしている晴人に指で銃の形を作って撃ち抜く仕草をする。


これで私も1歩進めたよ。大好きだよ、晴人

私の初恋はまた燃えだした

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