第20話ファーストキス

「電話してくれ愛衣」

「わかった」


その時再び男から電話がかかってきた。


「気が変わったお前1人で指定する場所にこいもしも破ろうとしたら爆弾でこの女を殺す」

「わかったどこに行けば良い」


指定された場所は学校の最寄り駅のすぐそばの公園だった。僕は愛衣に事情を話して1人で電車に乗り込む。これから僕はどうなるのだろうか。愛衣の話だって聞いてあげられていないのに

公園につくとピンクのうさぎ着ぐるみをした何者かが風船を片手に近づいてきた。そのまま抱きつかれてたと思ったら首筋に電流が流れて意識を失った。一瞬見えた赤い風船は空へと飛んで行った


***


意識を取り戻したときの視界は目隠しをされていて真っ黒で何も見えやしなかった。手足を結束バンドで縛られ身動きが取れない。しかし何かに乗っているのか動いたり止まったりしている。口元もしっかりとタオルをまかれて声をあげられない


「目を覚ましたか」


変成器をしていない何者かの声はあきらかに成人を越えた大人の声だった。そして僕はその声を確実に聴いたことがあった。心がやつれたのか殺意のせいか声の雰囲気は違うが確かに春風を襲おうとした犯人の声だった。その瞬間に点と点が結びつくような感覚を覚えた。朝のニュースで流れた脱獄した犯罪者はこの男だったのだ。

安心しきっていた。可能性を考えなかった。ニュースをしっかりと聞くべきだった。この男は脱獄までして恨みを晴らそうとしている。この男は死ぬことすら恐れていないだろう。背筋が凍るほどの恐怖が身に降りそそぐ。


「降ろすぞ」


目的地に着いたのか乗り物の動きは止まり、男が目隠しを外す。外を見ても辺りには人っ子1人いないような場所で近くには大きな倉庫が1つ建てたられていた。男は僕の体を運んで車輪のついたベッドに乗せて倉庫に入る。そこには星川さんが両手を縄で金属パイプと結びつけられて両足を結束バンドで拘束されていた。


「大宮くん……ごめんね……」


涙ぐんで謝る星川さんに僕も涙を浮かばせて謝る


「ごめん……僕のせいなんだ……この男の恨みをかったのは……」

「おい、おい女との感動の再会ってわけでもないんだ。もしろ俺と久しぶりだろ」

「黙れ!」

「あぁん、わかってんのか!てめぇなんざいつでも殺せんだぞ!」


荒げた男の声に理性を感じることはできなかった

大人が殺意をもって本気で怒鳴る怖さに体が震える。こんな状況で星川さんはずっと1人で耐えていただなんて……僕のせいだ。涙が止まらなくなってきた。怖い、辛い、助けて、死にたくない。誰か、誰か、心の中で叫び続ける。


「なぁ女にとって1番辛いことってなんだと思う」


不適な笑みを浮かべる男に僕の脳内が反応する


「やめろ!」

「この方法はなぁお前にもダメージがあるからな一石二鳥だよな」

「いや、俺が気持ち良いから三鳥ってところか」


ハハハと威圧的に笑う男の声に下唇を強く噛む。鉄の味が舌に広がるまで


「おい、女。お前処女か?」

「……」

「聞いてんだよ!わかってんのか!」


体をビクッと震わせる星川さんの髪の毛を引っ張って男は思いっきり顔面に平手打ちする。パチンと倉庫中に広がる音と僕の塞がれた口から出るうめき声に近い声だけがそこにいる3人の耳に流れる。星川さんはキリッと男を睨んで、乱れた髪の毛と涙で濡れた顔を見せる。


「まだわかんねぇのか」


もう一度男が平手打ちする。パチン、パチン、パチンと連続で

星川さんは声を出さずにただ耐える。男を睨み続けて……

男はつまらなく思ったのか僕の方に歩いてくる。

コン、コン、と大きく足音を倉庫に響かせながら

近くまでくると口にまかれたタオルを外して僕のお腹を力いっぱい蹴り上げる。


「グホッ」


自分よりも一回りでかい男に蹴られた腹は絶叫するほどの痛みに襲われてピクピクと体を震えさせる。それを面白く思ったのか男はもう一度蹴り上げる。笑いながら、つばを飛ばしながら、どんどんと蹴っていく。3,4回の我慢も虚しく5回、6回目には声を上げていた。


「やめて!お願いだから大宮くんに手を出さないで……」


本来なら僕が言うべきことを星川さんは力強い目で訴える。


「そうか、そうか、お前は自分の痛みには耐えられても人の痛みには耐えられないか」


汚い笑い声が耳腐らせる。僕は男の顔に危機感を覚えて結束バンドで止められた両手と両手で男の右足を抱くように掴む。男は容赦なく左足で体を何度も何度も踏みつける。

耐えないとダメなんだ……もしもこの足を離したら僕はもうこれからまともに動くことはできなくなってしまう。痛さなんてどうだって良い。僕にとって大切な人が傷つかないなら。

体から血が流れても離さない僕を男は気持ち悪く思ったのかポケットから取り出したスタンガンで僕の手を感電させる。

手の力が緩んだ隙を男が見逃すわけもなく振りほどかれてしまった。


「やめてくれ!頼む!僕のことはどうしたって良いから星川さんを、大切な人達を傷つけないでくださいお願いします………………」


死に物狂いで出した声はどんどんと弱っていって最後はもう涙ながらのお願いに等しかった。

男の動きがそんなもので止まるわけもなく、むしろ男はやる気を出してしまった。


「お前どうせ処女だろ。犯してやるよ」


ゴン、ゴンと力強い足音を鳴らして、ゆっくりと近づいていく。


星川さんの顔はついに恐怖に負けて体を右往左往に揺らす。男の両手が星川さんに向かって伸びていく。

嫌だ、嫌だ、そんなの絶対に嫌だ。助けて、助けて、誰か、誰か、誰か?ここには僕しかいないだろしっかりしろよ

僕の体はどこかに縛られてるわけじゃない。

それに気づいた瞬間とにかく必死に両足ケンケンで動いていた。男の体に叫びながら突進する。


「させるかぁあああ」


なんとか男が星川さんに触れるのを阻止して倒れ込む。


「てめぇ調子のんなよ!殺すぞ!」

「殺したっていい!それでも星川さんには手を出させない」

「大宮くん……」

「ならお前を限界までいたぶって再起不能にしてやるよ」


そっからはとにかく殴られ蹴られの繰り返し、血反吐を吐いたって止まりはしない。僕が反撃しようとしても避けられて蹴られる。


「もういいよ!もうやめて……お願いだから……私のことなら好きにしていいから……」

「ダメだ!それだけは絶対に!」

「大宮くん私のこと忘れて良いよ」


誰よりも強い彼女はこんなときだって、何よりも辛いことをされそうになっても人のことを助けようとして、無理矢理笑顔をつくる。


「忘れられるわけないだろ……僕にとって初めて真っ正面から好きですって告白してくれて、誰よりも積極的な君を忘れられるわけないだろ!」

「忘れてよ……それが私の最後のお願いだから…」

「嫌だ……」

「お前もう黙っとけ」


お腹を全力で蹴られて僕はもうたてなくなった。

足を奮い立たせようとしても震えて立ち上がらないんだ。体が怖いって叫んでる。動けよ!動いてくれよ……今でも星川さん体を震わせながらも凛々しく男を睨んでるんだぞ……頼むよ、動いて

もうダメだった。体も精神も限界だ。満身創痍なんだ。もう見ないように目を瞑るしかないんだ。


「さよなら、大宮くん大好きだったよ……」


ギリギリ聞き取れたその言葉に僕は奮い立てた。

男の手はもう星川さんの制服を掴んで脱がそうとしていた。踏み出した両足での1歩の音に男は僕に気づいて星川さんにキスをした。


「っ!」


怒りのこもった僕の全力の突進に男は足を後ずさりさせて倒れた。ドンと鈍いを音が響くと男の頭から血が流れそのまま意識をなくした。

僕はその異常な事態をどうでも良いと感じてしまうほど、星川さんに急いで近づいた。

 

星川さんは涙を流していた。目を大きく開かせながらどこか遠くを見つめて


「星川さん……」

「ごめんね……私……大宮くんにファーストキスをあげることができなくなっちゃた……」


気づいたときにはもう動いていた。


「っ!」

「そんなことどうだって良いんだ、僕があいつのことを上書きしてやる。だから僕のファーストキスを君にあげる」


星川さんの唇を奪っていた。驚く彼女に僕はもう一度キスをした。彼女の涙を拭いながら


「良いの……私なんかで……」

「僕はもう夢しかみてない。好きなんだ」

「私も……大好きだよ、はるとぉ………」


その後愛衣が呼んだとゆう警察が駆けつけて僕らの縛りを解いてくれた。しかし、男は死亡。正当防衛で僕が捕まることはなかったが人を殺した事実は変わらない。それがどんな相手だろうと背負わないとわないといけない。


そして僕と夢は付き合うことになった。僕が夢を好きになった。彼女の強さに、優しさに、向けられた気持ちに応えたいと思ったから

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