第19話苦くて辛い

早朝鳴り響く目覚まし時計を止めて、顔を洗う。

まだ開ききってない瞼を無理矢理開く。

朝ごはんと共に朝のニュースを見る。天気、エンタメ、犯罪と色んなジャンルについて取り上げられている。社会のリモート化が進むとか、犯罪者が脱獄したとかそんな情報を頭に入れて制服に着替える。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


履ききれてない靴を地面にトントンと叩いて駅へと向かう。体育祭が終わったおかげでしばらくはゆっくりと過ごせる。中村なんかと雑談をするぐらいには余裕がある。駅につくといつの間にか一緒に登校することが普通になった星川さんが待っていた。


「おはよう」

「おはよう」

「昨日はどうだったの」

「どうって言われても愛衣の母さんに会いに行っただけだからな」

「大宮くんって……も、もしかて年上好き」

「違うよ!」

「そうだよね~」

「当たり前だろ」

「あ、そうだ大宮くん今日買い物付き合ってくれない?」

「別に良いけど」

「ありがと、じゃあ2人っきりで行こうね」


別に複数人で行くとは思ってなかったけど、その言い方されると意識してしまうからやめてほしい

そのまま改札を通って電車に乗り込む。


「星川さんは遠くの学校を選ぶとしたらどんな理由があると思う」

「う~ん。色々あると思うけど、私なら偏差値とか部活が強いとかかな」

「普通はそうだよね」

「でも、可能性の話なら中学で孤立してたとか好きな人がその高校にいるからとかかな」

「好きな人ねぇ」

「わ、私はたまたまだからね」

「そこまで自分を魅力的な人間だとは思ってないよ」

「ううん。魅力的だよ、昔も今も」


恥ずかしげもなく言ってくれる星川さんに僕は少しだけ、頼っているのかもしれない。肯定してほしいだけなのかも


「でも少し変わったかな」

「変わった?」

「中学のときは私を特別扱いしないから好きになったけど、今はかっこいいって思ってる」

「本人の前で恥ずかしくないのか」

「好きな気持ちを好きな人に伝えて恥ずかしいなんて思いたくない。照れることはあるけどね」


凜とした顔と言葉にかっこいいって思った。星川さんは誰よりも強い。


***


放課後。僕らはいつものメンバーで帰る。星川さんとの買い物は僕らの最寄り駅周辺でするとのことだった。駅について愛衣にさよならを告げて歩き出す。


「晴人、ちょっと待って……」

「どうした」

「昨日のこと話したいから」


愛衣の状態を考えるなら聞いてあげたいし、僕自身そのことを知りたい。けれども今日は星川さんと約束をしている。それを断ってしまうのは僕にはできない。


「今日の約束はなかったことにしよ」

「星川さん……」

「大切な話なんだよね」

「うん、ありがとう。絶対に今度埋め合わせするから」


僕は愛衣の話を聞くために昨日と同じ電車に乗る


*** 星川夢


「はぁ~どうして私は敵に塩を送っちゃうかな」


改札を抜けた私は寂しい気持ちで外を歩く。

私のした行動に後悔はなくとも気持ち的には結構沈んでしまう。一日中楽しみにしてたのに。そもそも誘う時だって平然を装ってたけど心臓バクバクだったし、絶対に責任とってもらうから


「君もしかしてさっきの男の子の友達」

「はい、そうですけどあなたは」

「そっかーなら……」

「っ!」


突然話しかけてきた大人の男はハンカチで私の口を塞いできた。私の必死の抵抗は男の腕力に虚しくも負けて、意識を失ってしまった。


*** 大宮晴人


「ここで良いの」

「ここが良いの」


愛衣と訪れた場所は10年前に愛衣の家族と花見にきた緑坂公園だった。そして、約束の場所だ

僕らにとって今でも大切な想い出の場所。


「私ね中学の頃いじめられてたの。いや、小学生の頃からずっと」


愛衣から伝えられた告白は予想していたものだ。

彼女みたいに好かれる人間がどうしていじめられているのか僕にはわからなかったけどきっとそうなんだと確信めいたものがあった。


「そっか」


僕は愛衣の過去を受け止めてあげたい。そこには僕自身もどんな感情があるのかわならないほど複雑だ。これから話を聞こう。

そんな時だった。LONEの通知が音をたてたのは

表示された名前は夢。連続でなる通知音。LONEを開くとそこには1枚の写真と文が連投されていた。


「え……」


開いた画像には手足を縛られ、口をガムテープで塞がれた星川さんが写っていた。焦った僕はすぐに文を読む。そこにはお前の大切なものを全部奪ってやるとだけ書かれた文が今もなおずっと送られ続けている。


「どうしたの晴人」


異変を察知したのか僕の震える手に持たれたスマホを覗き込んで驚嘆の声をあげる。


「晴人……ど、どうしよう!」

「と、取り合いず警察に……」


スマホから音楽が流れる。電話だ。相手は星川さんのスマホを使ってるであろう犯人。恐怖に身を震えさせながら電話に出る。愛衣は自分のスマホを取り出して会話を録音する。


「も、もしもし」

「久しぶりだな」


声は変成器を使っていて、男か女かもわからない


「星川さんは無事だよな」


声は自分でもわかるほどに弱々しく震えていた


「その質問には答えない」

「なんで電話をかけてきた」

「1つはお前の恐怖している声を聴きたかったから、もう1つは警告だ。もしも警察に電話をしたらこいつの命すらないと思え」


電話が切られる。僕なんかにはあまりにも自体が大きすぎてどう判断すれば良いかわからない。

星川さんの命がかかっている以上下手な真似はできない。それに向こうには要求がない。ただ、僕の大事なものを全部奪うとゆうことだけがわかっている。


わからない、わからない、わからない。どうすれば良いんだ。星川さんを助けたいのに怖い、怖くてたまらない。


「晴人落ち着いて」

「こんな状況で落ち着けるわけないだろ!」


バチン!

頬からなる大きな音と痛みが5感を刺激する。


「時間がないんだよ」


愛衣は冷静に僕の目をじっと見つめる。さっきまで色んな想いを持って僕にいじめの過去を伝えようとしていた。彼女なのに……すごいよ


「ごめん、少し冷静になったよ」

「どうする」

「相手の要求を聞く」

「それしかできないか……」


犯人の場所もわからない。何人なのかもわからない。どんな武器を持ってるかもわからない。わからないことだらけだ。けれども確実に僕に恨みを持っている。そこに何か糸口があるはずだ。

電話をかける。すぐに犯人は電話に出た。


「何だ」

「要求を教えていただけませんか」

「要求?」

「僕は彼女を返してもらいたい」

「そんなものはない。ただ絶望してくれ、お前のせいでこの女は死にこれからもどんどんとお前の周りは不幸になっていく様を見ていろ」

「なら僕が死んだら」

「晴人!何を言って」

「お前が死のうが関係ない。俺の人生を破綻させたんだ。死んだ程度で許されると思うなよ」


あぁ……ダメだこれは完全に目的が苦しめることだ。要求なんかありもしない。終わった……完全に詰んだ。電話は切られて、もうどうしたら良いのかわからない。


「晴人警察に言おう」

「そしたら星川さんが殺される!」

「わかってるよ!だけど……それしか私達に残された手段はないんだよ」

「……そうだな」


愛衣は正しい。頭では理解している。それでもこの結果星川さんに何かあったら僕はどうにかなってしまいそうだ。それがただただ怖いだけなんだ

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