第18話見え隠れするもの

「ねぇ晴人お母さんが会いたいって言ってるんだけど家こない」

「別に良いよ」


愛衣が引っ越してから家に行くのは初めてだな

部活に入っていない星川さんと愛衣と3人で下校する。


「あれ、大宮くんこっちじゃないの」

「今日は愛衣の家に寄ってくから」

「え!」

「そうゆうことだから夢」

「ズルいよ~」

「いつも晴人と2人で帰ってるんだからたまにはいいでしょ」

「むぅー大宮くん愛衣に何もしないでくださいね」

「何もしないわ」

「じゃあね」

「バイバイー」


よく考えたら僕って幸せ者だよね。好意を寄せてくれる女の子がいて、親友がいて、好きな人がいる。高校生活において今のところ勝ち組

愛衣と話ながらいつもとは反対方向の電車に乗って愛衣の最寄り駅までガタンゴトンと体を揺らす


「愛衣ってどうして雪下高校選んだの」

「……学力がちょうど良かったからだよ」

「そっか」


愛衣の表情が一瞬だけ曇った気がした。

きっと地下に入って外が暗くなったからそう見えただけだ。


「次の駅で降りるよ」

「了解」


駅の改札を抜けて外の世界に出る。外は少しだけ暗くなっていた。迷いなく歩く愛衣の隣について

家まで向かう。駅の周辺には建物が並んでいて色々なお店があった。寄り道ついでにぶらりと2人でお店の中を回っていると愛衣が動きを止めた


「あっれ~愛衣じゃん」

「ほんとだ~最近あんま見ないからまた引き籠もったのかと思ったわー」


愛衣は小動物のように怯えていて、顔を強張らせていた。そっと愛衣の手を握りしめる。よくわからないけど、僕に出来るのはそれぐらいだ。

向かいに立つ3人組の女子達は僕らと同年に見える。その全員の顔が愛衣をあざ笑っているように見える。


「もしかして~そこの冴えない男が愛衣の彼氏なのウケるんですげど~」

「ねぇ~中学のときはモテモテで色んな男振ってたくせに可哀想~」

「どうしてそんな男選んだの~」

「僕は彼氏じゃない」

「え~でも思いっきり手握ってますけど~」

「手を繋ぐだけで恋人同士とか思ってるのウケるんですげど~」


こちらもなんだか嫌な気持ちになってきたのでつい煽ってしまった。向こうは興が冷めたのかキッモと言い残して去ってしまった。愛衣は終始無言でそのまま家についた。愛衣は鍵を取り出してドアを開くと小さな声でただいまと呟いていた。僕もそれに続くようにおじゃましますと言って玄関を上がる。


「いらっしゃい晴人くん」

「こんにちは久しぶりですね」


愛衣に先導されながらリビングに行くと愛衣の母さんが出迎えてくれた。しかし、愛衣の表情を見て心配そうな顔をする。


「今日は帰りましょうか」

「大丈夫よ、ちょっと話を聞かせてもらえる」

「僕もよくはわからないですけど実は………」


店内での件を伝えると愛衣の母さんは僕に愛衣をお願いと頼んで部屋に行くように言われた。階段を上り愛衣と書かれた木の板が吊された部屋をノックする。


「どうぞ」


部屋を開けると愛衣は制服のままにベッドに寝転んでいた。


「制服しわになるよ」

「今日は良いよ、お母さんとの話は終わったの」

「うん、さっきのことを話したよ」

「そっか……また心配かけちゃうなーダメだな私」


僕は初めて入った女の子の部屋よりも電気もつけず、ベットに寝転ぶ愛衣の疲れたような悲しそうな声の方がずっと気になって、隣に座り込む。


「用も済んだし、帰っても良いんだよ」

「そうだね」


それでも僕は今のまま放っておくことができなくて会話もせずに座り続ける。スマホもイジらすに愛衣の口が開くのを待ってただ座っていた。

すると愛衣は静かに僕に抱きついた。僕は何も言わずに頭を撫でる。


「ごめんね……ありがとう……」


時間が許す限り僕はそのまま愛衣を撫で続けた。

愛衣はもういいよと言ってベッドに座る。


「ねぇキスしても良い」

「僕の優しさに惚れちゃった」

「とっくにだよ」

「嘘つけ」

「どうして」

「優しいだけの男はモテないから」

「ばーか優しいだけじゃないよ」

「もう大丈夫みたいだな」

「うん。今日はありがとね、いつか、絶対に話すから……」

「無理はしなくて良いよじゃあね」

「うん、バイバイ」


愛衣の母さんに挨拶をして帰ると外はもうすっかり夜だった。ほとんど知らない道をスマホのナビを頼って進む。夜の風はもう、温かかった。

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