第17話バドンが繋いだもの
「君は本当に恥ずかしくて不登校になったの」
「あぁそうだよ」
「長谷川さんのためじゃないのか」
「っ!」
中村は面をくらった様子で驚き、はぁとため息をついた。
「誰から聞いた」
「長谷川さんから色々話を聞いた」
「未来のやつ……」
「中村学校にこないか」
「俺の居場所はもうねぇだろ」
「どんだけ長谷川さんが大切なんだよ」
「は!どうしてそうなるんだよ」
照れる姿は中村らしくなかった。いや、もしかしたらこっちの方が中村らしいのかもしれない。
「長谷川さんがいじめっ子の彼女ってなるのが嫌なんだろ」
「そ、そうだとして、結局俺が行く必要ないだろ」
「確かに行く行かないは中村が決めることだ」
「なら……」
「だけど、僕は少なからず負い目を感じているし、中村が必要なんだ」
「それはどうゆうことだよ」
***
体育祭合同練習2回目。今度のリレーは前回の反省を生かして速い達が後半に待機している。
スタートをきりるのは亮太だ。2回目のこともあるので、亮太の次は俺そっからは決まってある順番で走って行く。前半は中々に接戦だった。抜かれては抜いて、を繰り返して3位の順位で後半組にバトンを渡す。先ほどよりもレベルの高いリレーが行われている。バトンパスの速さや、距離感
コナーでの走りどれだけ無駄を無くした方がこのリレーで勝利することができる。そんな激しい攻防のなか亮太が走り出す。ギリギリ1位を保ちながら、アンカーの僕にバトンが渡る。
「晴人!はい!」
「おう!」
そんなに速くない僕と後ろにいる走者の距離はどんどんと詰まっていき。1人、2人と抜かれ結果は
3位……前回とは変わらずだった。雰囲気は悪くない。あ~惜しかったとかドンマイドンマイと誰かを責めるような言葉が飛ぶことはなかった。僕がはじめに文句を言うなよと言ったこともあるかもしれないが、少なくとも僕の目には純粋に悔しそうにしている。1位をとれる可能性を見出せたからなのかもしれない。
「委員長、今から代走者を変えることはできないか、勝ちたいんだ」
「もう申請期間は過ぎちゃってるから無理かな」
残り8日をきった今もう変えることはできない。
だから僕は1つ考えがあった。責任を取り直してあいつをもう一度クラスに来させる方法。だから僕はあえてアンカーを選んだのだから
***
「なるほどな、事情はわかった。だけどそれでも俺がいじめてたことは消えない」
「確かに消えない。でも、山本があのとき亮太をはめた事実だって消えない。どちらが性格悪いとみんなの印象に残っているかで言えば山本の方だよ」
「そんなこと関係ないだろ」
「あるよ。印象を上書きできるからなそれでも納得しない奴がいるかもしれない。それはお前が今後どうにかして行けば良い」
「……そうかよ」
「体整えておけよ」
***
8日間後、体育祭本番がやってきた。クラスは完全に優勝を目指す空気感。中村はいない。
リレーまでにはくるよな……
個人種目が着々と終わっていく。次の種目は綱引き。この種目はどれだけ、順位を下げないかが重要だ。とにかくクラス全体が声を出して踏ん張るなんとか3位に抑えることができた。午前の部は終了して、昼ご飯を食べる時間になった。
「晴人一緒に食おうぜ」
「あの3人も呼ぶか」
すっかり星川さんもいつものメンバーになっていて、僕らは楽しくご飯を食べていた。僕は中村がこないか気が気ではなかった。トイレに言ってくると食堂を抜けて、長谷川さんの元に行く。
「長谷川さん、中村から連絡あった」
長谷川さんには今日のことを話している。感謝はされたけど不登校の原因をつくった人間でもあるから申し訳ない気持ちが込み上げてきた。
「ううん。朝に行くってきてからLONEはきてないよ」
「そっか……」
午後の部が始まっても中村は姿を見せなかった。
ついにリレーが始まろうとしている。現在の順位は3位。1位ならば優勝することが可能な状況だ
列に並ぼうとしたとき、汗をだくだくにかいた中村が姿を現した。
「中村!」
クラスの雰囲気が少しとげとげしいものになる。
もう中村の存在は異分子扱いになっていたのだ。
「電車に乗ろうとしたら財布がなくてな走って学校に向かってたらギリギリになっちまった」
「走れるか」
「当たり前だろ、このために調整させてきたんだ」
アンカーのビブスを中村に渡して、リレーの順番に並ぶ。若干雰囲気は悪いが始まればそんなものはなくなり、とにかく声を出して応援している。
僕の番はすぐに終わり、後半組にバトンが渡る。
接戦を駆け抜けて亮太にバトンが渡ろうとしたとき、前の走者が転ぶ。時間が止まったようだった
嫌な汗が体から出る。亮太は急いでバトンを受け取り全力で走る。差はそこまで開いてない。それでも現在ビリ。残りは今走ってる亮太と中村。クラスはとにかく応援する。亮太がなんとか2人を抜いて、中村にバトンを渡す。
「頼んだぞ!」
「任せろ」
中村と亮太のバトンパスは初めてとは思えないほど完璧にきまった。それは今までサッカー部で高め合ってきた部分があるからだろう。中村は力強い走りを見せる。まずは2組を抜く。3組との距離は5m。残りはおよそ50m。中村はなんとか距離をつめていく。10mにつき、1m詰めていく。中村の顔はかっこいいほどに全力で輝いていた。残り10mの競り合い。踏み出す足には砂ぼこりが立つ
「裕木頑張ってぇ」
長谷川さんがクラスを応援するのではなく。中村に向かって叫んでいた。それが届いたのか、最後の一瞬中村は3組を抜いた。ゴールテープを1番に駆け抜けた中村に1組の歓声が校庭を響きわたる
その後全クラスのアンカーがゴールをして、先生がピストルをならす。
運動部の男子達は中村に駆けよって抱きつく。
成功したみたいだな。良かったよ。長谷川さんもその様子を見て安堵していた。その後体育祭の全ての競技は終わり閉会式が始まる。
「準優勝3組」
係が淡々と告げると3組の人達が悔しくとも嬉しそうな声を上げる。
「優勝1組」
1組は枯れかけている声をあげる。僕らは全力で笑顔をこぼして近くの人とハイタッチをした。
クラス代表として受けとった優勝トロフィーはずっしりと重くて優勝したとゆう実感が湧いてくる
閉会式が無事終了するとクラスは中村を完全に受け入れて、新たな日々が始まった。余談だけど、数週間後サッカー部のレギュラー発表でチームプレイをするようになった中村はレギュラーに選ばれたそうだ。
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