第7話偽善と答え合わせ

2日たっても亮太は学校に姿を現さなかった。停学中とか噂が流れ始めているが中村達は学校に来ているのでそれはない。けれどクラスは亮太がいなくなったことを受け入れていた。数人を除いて……

僕は昼休み山本を呼び出した。彼はなんともなさそうに校舎裏に来てくれた。


「話はわかってるよね」

「うん。河合くんのことでしょ」

「罪悪感はないの首謀者は亮太だって嘘をついて」

「罪悪感?どうしてそんなものを感じるの僕は苦しんだんだよ仕方ないでしょ今までイケメンで良い思いばっかしてきたんだからそんぐらい」


ふざけんなよ……今まで助けてもらった相手にそんなこと……自然と手に力が入ってしまう。覚悟は決めてきた。僕は偽善に協力するって言ったんだから僕も親友のために偽善を働く。


「あ、でも大宮くんには悪いことしちゃったなって思ってるよ。だって彼君の唯一の友達でしょごめんね。だからさ僕と友達になろうよ。君とは同じような雰囲気を感じるし、僕今君と同じでぼっちだし、お近づきの印に漫画持ってきたよ」


悪びれなくそんなことを言う彼の目は必死だった。怖いんだろうな1人が

いじめから解放されて2日間同情されることはあっても友達になろうとしてくれる人は1人もいなかったんだろうな。だから僕の呼び出しを受けた。


「聞いてもいいかな、中村になんて言われてやったの」

「えっとね、中村くんはね河合くんに嫉妬しまくってたんだよ自分よりもシュートを決めてない河合くんが選ばれてどうして俺がって具合にね。だからそんなときに僕を利用しようとした。お前亮太の友達だろってもし、作戦に乗ればお前をもう2度といじめないって言ってきてさ、正直な話僕はずっと河合くんのこと嫌いでさ、才色兼備のイケメンで友達も信頼も多くあって、僕にないものを全部持ってるそんな不平等なことある?だからさ僕は乗ったんだよその提案に少しぐらい不幸になってほしくてさ!」

「そっかもう十分だ……もうお前とは関わらない」


最後のチャンスを棒に振るうのかこいつは


「待ってよ!君だって僕がいないとぼっちだろ!一緒にいた方が平和だろ!河合くんのことなんて忘れてさ!」

「ぼっち?何勘違いしてるの僕には愛衣がいるよモテない君とは違ってね」


まさかこんなところで噂が役に立ってくれるなんて、罪悪感はあるけど……そこに愛衣が現れた。


「ねぇどこ行ってたの一緒にご飯食べようよ。弁当作ってきたから」

「え!マジで嬉しい一緒に食べよかっ」


こんぐらいの煽りはさせてくれよ。本当は殴ってやりたいんだから。愛衣には悪いことさせてるけどもちろんお願いして許可を得ている。僕らは振り返ることなく山本の前で恋人を演じた。後ろから聞こえた舌打ちと睨むような視線裏切り者と心の声が聞こえてきそうだ。教室に戻り愛衣と一緒にご飯を食べる。


「本当に弁当作ってきてくれたんだ」

「うん!いや、あのふりをするには弁当あった方が良いなって思っただけだから」


弁当は嬉しいよでも、今はただ罪悪感がの方が大きくのしかかる。この問題が解決したら僕は正直に言おう。なんて言ったら良いかわからないけど伝えないといけない。僕はもうそろそろ完全に初恋を忘れないといけないから。自分が進むためにも愛衣が進むためにも


「そうだアレはちゃんとできた?」

「大丈夫だよ。なんだかやっぱり晴人って感じがするよね」

「結構酷いやり方だよ」

「やり方じゃかくて、助けたい人のために全力を尽くすところ。凄くかっこいいよ」


はにかむ笑顔に僕はなんど救われただろうか。ついうっかり僕は心臓を大きくならしてしまった。


お昼休みが終わればあと2時間短いようで長いけど頑張りますかと体を伸ばす。

5, 6時間目の間10分休みになった。亮太が後ろにいない寂しさを感じていた。すると青山さんが話しかけてくれた。


「大丈夫かな河合くん」

「青山さんは亮太がやってないと思う?」

「もちろんだよ。あんなに根が優しい人なんていないから。それと大宮くんも大丈夫?」

「とにかく心配だよ、だけど僕はどうにかするよ」

「何か協力できることがあったら言ってね私も協力するからもし、ドッチボール大会のこと気にしてたら大丈夫だよ。あんなことが起こるなんて予想できないし、それまでの間みんな楽しんでたから」

「そう言ってくれると助かるよ」


放課後僕は1人職員室のドアをノックした。対応してくれたのは滝沢先生だった。僕のことも亮太のこともとても心配してくれていた。だから僕はそっと校舎ないで使用禁止のスマホを取り出して動画を再生させた。校舎裏での僕と山本の会話動画なんて撮られてないと思ったのだろうけど僕は決めたから恨んでも良いよ。撮ったのはもちろん僕じゃなくて愛衣だ。本当に助けてもらってばっかで申し訳ない。だけど愛衣がナックルで言ったアイデアがここに来て使われるとはあの時は想像もしなかった。無言で全部聞き終えた先生は教頭や校長を呼んで奥の部屋に入ってもう一度動画を再生させた。先生達は約束してくれた。亮太の無罪を主張してくれると他の者にも罰を与えると明日は学年集会が開かれることになった。これで僕の偽善は一旦終わりだ。もちろんこの話の内容も録音したし、最悪全部校内に流す。僕は失礼しましたと言って職員室から出て愛衣と帰る日常を送った。


「どうだった」

「約束してくれたよ」

「そっかこれで河合くんも戻れるかな」

「だから僕の最後の役目は連れ戻すことだよ」

「前より頼もしくなったね」

「僕は大切にしたいと思える人がすくないからね量より質ってだけだよ」

「そんなかに私は入っているのかな」

「当たり前だよ」


こんな会話ができるようになったのが他に好きな人ができたからなんてゆう悲しいことじゃなければ良かったのにと今だけは思う。

どうせ好きって気持ちには逆らえないんだから


駅で別れていつもの電車に乗って見慣れた街を歩く。今日は遠回りするよ。あの日亮太と行った公園を通って1つの家の前に立つ。表札には河合と書かれている。呼び鈴を押して誰かが出るのを待つ。


(は~い)

(大宮です亮太に会いに来ました)

(晴人くん来てくれたのありがとう上がって)

(お言葉に甘えさせてもらいます)


亮太の部屋は2階へ上がってすぐ横の場所だ。コンコンとノックをならす


「俺だけど入ってもいいか」

「晴人か……どうぞ」


ガチャとドアを開けて入ると暗い部屋のままベッドに座っている亮太の姿があった。


「学校こいよ」

「無理だよ俺はいじめの首謀者として色々言われる。あの瞬間だってそうだったんだ」

「俺が何もしないでここに来たと思うのか」

「何をしたんだ」

「偽善だよ」

「晴人はさ凄いよな」

「亮太ほどじゃないよ、あの公園にでも行こうよどうせ2日間外に出てないでしょ」

「そうだな」


亮太が着替えて僕と外に出ようとしているのを亮太の母さんが見るとこっそりと僕にありがとうと言ってくれた。僕は感謝されるようなことをしてないけれど素直に感謝は受けとった。


「こんなに早く立場が逆になるなんてな」


公園のブランコで男2人がぶらぶらと揺れる。


「そうだね僕もこんなに早く訪れるとは」

「持ちつ持たれつって奴だな」

「だからさ明日は一緒に行こうよ学校僕は亮太以外に学校に友達がいないもんでさ暇なんだよね」

「仕方ねぇな俺がいないと天秤はバランスを保てないからな」


僕らは単純だ。こんな風に話すだけで大抵のことはどうにかなってしまうのだから。そのせいだろうかこんなことを話そうとしているのは


「僕さ約束を破ろうと思うよ」

「破るって好きな人でもできたのか」

「そうだよ」

「小林さんのこと?」

「愛衣は約束の相手だよ。僕が好きになったのは青山さん」

「そうか……なら俺から言えることは1つだな頑張れよ10年間ってのはそう簡単に捨てられないだろ」

「だから今まで誤魔化してきた。けどもうそんなことしない向き合うって決めたから」


次の日亮太の冤罪は晴れた。中村達は学年全員の前で謝罪させられて、顔面真っ赤かになっていた。山本は謝罪をしたあと早退して帰って行った

もしかしたらもう来ないかもしれない。けど僕はそれでも亮太を学校に連れ戻したかった。身勝手で偽善的な人間だよ。悔いなんて1ミリもない

青山さんから頑張ったねの一言をもらえたからそれだけでもう良いんだその他大勢を気にせるほど僕の器は大きくないから……

帰り道の別れ際僕は愛衣を止めた。


「あのさ約束の話僕は覚えてるよ」


嬉しそうな瞳には涙が光を反射させていた。僕は僕のことをきっと好いてくれている人を、初恋相手を傷つけることになる。それでも絞り出した


「僕は好きだったよ10年間君がいない間ずっと、だけどだけど、僕はもう君を好きじゃない」

「どうして、そん風に言うのかなぁ……はるとはさ……」


泣いている彼女きっとこの光景を僕は忘れることはない。それだけは断言できる。


「私は今だって……好きなんだよ、晴人のこと!」

「気づいてた。今までずっと言えなかったでも僕らはもう進まないといけない」

「進みたくなんてないよ……あの頃と同じようにずっと一緒にいたかった………」


泣きじゃくる声は僕の心を裂いていく。そんなことを思うのは彼女であって僕じゃないはずなのに


「だから、私は……私は、諦めない!晴人が好きって言ってもらえるように努力するから、覚悟しておいてよ…………」


走り去っていく愛衣を見えなくなるまで見つめて僕はようやく動きだせた気がした。

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