第5話 中村裕木2
サッカー部の練習は準備運動から始まり、アップをしたらすぐに試合の準備となった。休日練じゃないから時間ないもんね。
「私あんまりサッカーのことわからない」
「実は僕もそんなに詳しくない運動苦手だしスポーツにあんまり興味ないから」
「そっかじゃあ点をどっちがとったとかで見てれば良いかな」
うちのサッカー部は強豪校で人数が多い。全学年合わせて57人もいる。ほとんどがサッカー経験者のため軽い気持ちで入ったやつは夏前にいなくなるらしい。1年のレギュラー枠はベンチ含めて5人他は2年と3年が入るらしいけど、もしも1年に実力がなければ1人も入れないと言われたと亮太が言っていた。ちなみに中村と亮太はお互い対戦相手だ。審判の笛でキックオフする。
「河合くんすごいね」
「あいつ
亮太の仲間は全体的に攻め気味で
キャプテンマークは伊達じゃないみたいだな。
そのままもう1人のFWがシュートを決める。
「河合くんのチームに得点だよね」
「チームワークが良いから全体が上手く回ってるみたいそれに相手のDFは初心者が多い」
「どうしてわかるの?」
「スライディングをしてるから」
わからないといった様子で首をかしげる
「スライディングって危険だから中途半端に上手い人とかはしないと思うんだよね。危険性もわかってるだろうから」
「なるほどね、じゃあ河合くんのチームは強い人が多いの」
「それはまだわからない」
中村からのキックオフ。パスを出すとワンツーで攻め込んでいく。スピード重視のシンプルな戦法だけど確かに強い。中村はフィジカルが強くて動きが大きいから威圧的で中々抑えられていない。
もう1人はパスのコントロールが上手すぎる。糸で縫うように人と人との間をパスしてる。一気にゴール前に駆け上がった中村は力強いシュートを放つ。キーパーは一瞬怯んだためボールに届かずゴールが決まる。
「中村くんも上手い……だけどあのプレイは怖いな」
「そうだな全力で走ってきたら怖くて動けなくなるかもしれない」
***
結果は3対1で亮太のチームの負け。後半は完全に中村マークで点数を抑えたって感じで3点とも中村のゴール、ハットトリック達成拍手喝采ってところだな。でも、中村のプレイは見ててあまり楽しいものではなかった。ミスがあればそいつを攻めてボールに触らせようとしない。亮太は片付けを終えるとこちらに向かってくる。
「負けた、負けた、やっぱ強い」
「でも河合くんも上手かったよ」
「ありがと小林さん」
「選抜はいつ決められるの」
「金曜日発表するって」
「3日後か……じゃあもし選ばれたら3人でお祝いしようよ」
「俺は良いけど小林さんは良いの」
「うん!見てて楽しかったし」
「んじゃあ選ばれないとダメだな」
今日の帰りは3人だ。会話はレクリエーションのドッチボールの話。なんで男女混合なのかだったり、得意不得意の話、元外野の話とか色々。唯一引っかかった亮太の相談。実は同じクラスでサッカー部の
「難しいね僕は山本くんというか亮太以外の男とあんまり仲良くないからできることは少ないかも」
「私もこのクラスの女子のことなら協力できるんだけど男子のことは油を注ぐことになるかもしれないから」
「そうだよな。どうにかしてやりたいんだけどさ本人がこれくらい平気だからって言ってるからさ」
「そっかじゃあさ僕に山本くんのこと紹介してよ少しは協力できることあるかもしれないし友達増やしたいから」
「ありがとな」
愛衣はいつもの場所で別れて男2人で電車に揺られて帰る。翌日朝少しだけ早めに愛衣と登校すると朝練から帰ってきた亮太と山本くんと鉢合わせる。
「おはよう2人とも今日は早いな」
「ちょっとね、おはよう亮太、山本くん」
「お、おはよう大宮くん、小林さん」
「おはよう」
愛衣は他の女子と青山さんのところに行って会話に混ざっていった。僕は山本くんと友達になれるように山本くんの机あたりで3人で話す
「山本くんってサッカー部だよねポジションどこなの」
ほんとは知ってる。昨日の試合見てたからね
「えっと、DFだけど」
「DFって大変じゃない」
「う、うん大変だよ僕は初心者だし、漫画とかアニメで見てた程度だったからほとんど厄介払い的な感じで中村くんにDFやらされてる」
「嫌じゃないの」
「嫌じゃないよ。僕は全然上手くないからせめて足は引っ張らないように中村くんの言うことは聞いた方が良いから」
「あんまり無理すんなよ部室の掃除とか押しつけられてるだろ」
「掃除は好きだから問題ないよ」
どうやらかなり僕に近いタイプみたい。かなり重症な部類だけど。このままじゃいつ身を壊すかわからない。我慢できるタイプはため込むと自分を攻めるから
「あれ?」
「どうしたの」
「机においてあった消しゴムが見当たなくて」
「朝練の前?」
「うん、宿題やってなくて朝連が始まるより前に来てやってたんだけどどっかに転がってちゃったかな」
「僕の貸すよ2つ持ってるから」
「良いの!ありがとう大宮くん」
***
次の日も同じように登校して、山本くんと話す。
昨日と違って好きだと言っていたアニメや漫画の話を聞いた。今度貸してあげるよと言ってくれた
僕はインドアだけどアニメや漫画はあんまりくわしくなかったから色々おもしろい話が聞けた。
「あれ?」
「どうしたの」
「シャーペンがない」
「デジャブ……」
「ほんとだな。家に忘れたとかじゃないのか」
「昨日は家で使ってないから、落としちゃったのかなぁ」
「気に入ってるやつだったりした」
「そんなことはないけど」
次の日にはノートがなくなりその次の日には僕のために持ってきてくれたという漫画を無くした
「山本くんこんなに毎日物がなくなるなんて変だよ」
「原因は多分わかるから大丈夫だよ気にしないで」
「裕木達か?」
「多分そうだね」
「漫画結構な冊数あったんじゃない大丈夫」
「それは平気元々布教用だったから」
「しばらくはあんまり高価な物は持ってこない方が良いよ財布の中身とかも」
「うん、そうする」
***
金曜日また同じように登校する。いや、今日は嫌な予感がしてさらに少し早めに登校すると教室に山本くんはいなかった。
「山本くんは」
「あぁなんかトイレ行くから先に行っといてくれって言われて、そうだ俺選抜選ばれたよ!」
「本当に!おめでとう良かったね!」
「でもさぁ不思議なことに裕木は選ばれなかったんだよな。だから今めっちゃ不機嫌なんだよ」
「っ!待ってその中村は?」
「確か部室でボールの手入れ……」
そう中村が手入れを自らするなんて話を聞いている限りあり得ないんだ。絶対に山本くんに押しつけるはずだから
「行ってくる」
「待って、僕も行くよ」
部室に駆け込むと山本くんがお腹を抱えて壁に寄りかかりながら座り込んでいた。
「大丈夫か!どうしたんだ」
「なかむ……ちょっと転んじゃって心配しないでたいしたことないから」
「あるだろ、保健室行くぞ」
「うん……」
「わりぃ晴人俺は保健室つれてくから滝沢先生に言っといてくれ」
「わかった」
この日山本くんは早退した。怪我はたいしたことなかったけれど、中村と同じクラスで1日過ごすのは危険だろうと体調不良を訴えて今日はやり過ごした。
レクリエーションがあるのは月曜日。こんな状態でクラスが仲良くなれるはずがないよ。どうしよう、山本くんは問題にしたくないようだから先生に言うのも違う気がするし、他の人に言うのは危険だよな。けど愛衣なら誰にも話さないでくれるはず。相談するか3人でどうするか、明日の亮太の選抜祝いの時に話そう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます