第205話 卒業…そして人生の門出

卒業式当日。生徒達は体育館に綺麗に並べられた椅子に座り、卒業証書授与の順番を待っていた。次々と呼ばれ1人ずつ壇上に上がり、校長から一言ずつ貰い壇上から降りて着席する。


「赤坂昌利!…上野洋子!…遠藤由実!…大田和也!…大谷徹也!…小山内清!…」


そう、小山内清は奇跡的に皆と一緒に卒業証書を受け取ることが出来たのだ…吟子は息子の晴れ姿を見つめる。その後、天斗の名前が呼ばれ、薫の名前が…「重森薫!…」薫が立ち上がり壇上に歩み寄る姿を保護者用の席には兄、透。そしてその横には、食い入るように見守る真紀の姿があった。涙で視界を遮られハンカチで拭いながらも、一瞬たりとも目を離さず薫を目で追う…

全員の名前が呼ばれ、余すことなく卒業証書を受け取り卒業生は着席を終えた。全員の名前が呼ばれ、余すことなく卒業証書を受け取り卒業生は着席を終えた。そしてこの体育館出口辺りで新入生の相澤と加藤が涙を堪えながら一年を振り返り想い出に浸っていた。

俺達は、あの人達が築いたこの学校の在り方を…紡いで行きますよ…花には水を…人には愛を…今度は俺達がこの学校を一つに纏めあげるんだ!

小山内の男気はしっかりと新しい芽に受け継がれていく。


一方理佳子も卒業式を終えて学校生活最後の校門を抜けて帰ろうとしていた。そして待ち構えて居たのは…

いつの間にか増えていた理佳子のファンクラブの一年生達が行列を作って理佳子に熱い視線を送って涙していた。

石井から、もし少しでも理佳子先輩に迷惑になるような行為をしたら命の保証は無いと事前に説明を受けていた一年生達は、黙って理佳子を見守り続けていた。その姿を理佳子の母可奈子は複雑な気持ちで見ていた。


「え?もしかして!理佳子先輩のお母様ですか?」


石井が可奈子を見て驚く…理佳子先輩の将来の姿を見ているようだ…美しい…実に美しい…理佳子先輩もこんな歳の取り方していくのかぁ…くっそぉ~…理佳子先輩のハートを射止めた黒崎って奴が羨ましい…

正直可奈子はかなりドン引きしている。理佳子もどうしていいかわからず、まるで天皇陛下が庶民に手を振るが如く小さく手を振りながらペコペコ頭を下げて立ち去る。


翌日


いつもとは様子が違い、朝早くから何やらあわただしく会場の準備をする人達がいた。

ここは薫の知り合いが経営する地下のライブハウス。

会場の入口には大きくカラフルな花のアーチが据えられ、所々に置かれたテーブルには所狭しとオードブルが置かれていた。そして入口からステージに向かって赤く細長い布が敷かれている。

来場者が全て集まった所で一気に照明が落とされ入口にスポットライトが照らされる。

そしてそのライトが射す先には、タキシードを来た小山内とウエディングドレス姿の薫。

一斉にギャラリー達の祝福の歓声が上がり、会場は一気に盛り上がる。

小山内と薫は手を繋ぎ、ゆっくりと赤い布の上を進んで行く。ステージ壇上の手前には小山内の両親と薫の両親、父、矢崎拳と母、真紀の姿。

薫と小山内はそれぞれの両親に向かって深々と頭を下げる…


「お母さん…」


薫は感極まって堪えきれず大粒の涙を流し、小山内が優しくハンカチでそっと涙を拭う。


「薫、せっかくのお化粧が崩れちゃうでしょ…」


そう言う真紀も涙を流す…

続けて


「薫、とっても綺麗よ。お母さん、こんな姿の薫を見れて…この場所に居れて…とても幸せよ…全て、薫のおかげよ…ありがとう…生きてて良かった…」


「お母さん!」


薫が真紀に抱きつく。

この会場に居る全ての人達も感極まって涙し歓声を上げる。


「お母さん…ありがとう…本当にありがとう…まさか、こんな素敵なウェディングドレスを用意してくれるなんて…お母さんがあんなに質素な生活してたのに…どうしてこんな…」


真紀は自分の為には一切お金をかけず、ずっとこの日の為に貯金を続けてきた。いつか子供達の為にと…そして矢崎拳もこの式場の費用から薫達を祝福に訪れる者達全ての会費までを負担したのだった。


「拳さん…良かったですね…奥さんとまた…」


拳ははにかんで


「この歳になってまた新たな生活が始まるなんて思っても見なかったよ…本当に妻に感謝してる…」


スタッフの進行で披露宴は盛大に盛り上がった。

ここには、天斗と理佳子、そして理佳子の母可奈子、薫の仲間達、伝説黒崎の仲間達、小山内の仲間達も出席していた。が、伝説黒崎の姿は見えない…黒崎は一人ホールの外でひっそりと複雑な想いで薫の綺麗なウェディングドレス姿を見つめていた。


そして数日後…天斗の家の前に一台のトラックが横付けされた。すぐ後から一台の乗用車。

後部座席から降りてくる少女…ペット用キャリーケースを手に満面の笑みの理佳子の姿があった。



後書き

この度、黒崎天斗にお付き合い頂いた読者様方には心より感謝申し上げます。約3ヶ月に渡り連載した本作品はこの回を持ちまして終了させて頂きます。また後日談を少しアップするかも知れませんが、その際はまたお付き合い頂けましたら幸いです。本当にありがとうございました!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

伝説の男!黒崎天斗 CPM @CPM

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ