第200話 幸せなクリスマスイヴ
「母ちゃん、ただいま~」
「ほら!いつもの日常がやって来た!」
吟子が薫に向かってそう言った。薫がクスッと笑って
「清お帰り~!」
薫が小山内に声をかける。
「かおりん…」
小山内はホッとした表情で薫を見つめた。
「母ちゃん…母ちゃんの言ってた奥の手ってやつ…めちゃくちゃ効き目あったぞ!ヤクザの山口って人が借りてきた猫みたいになってた!」
「山口?山口さんかい…そりゃ見たかったねぇ…あの拳さんに説教される姿」
「お母さん…あの人ってそんなに権力あるの?」
「権力?ハハハ!拳さんにはそんなもの欠片もないよ…あの人は…みんなを暖かく照らす太陽って感じかな…」
太陽…そうなのかな…あの父ちゃんが…
「そうなんだ…清みたい!」
「プッ…かおりん、それ言い過ぎ!この子みたいにバカじゃないから!」
吟子が笑いながら言った。
「母ちゃん!自分の息子だぞ!バカはやめろよ!将来の嫁の前で!」
「え?清…今なんて?」
薫が呆気に取られてそう言った。
「将来の嫁…黒ちゃんにそう言われて…」
「清…今の聞かなかった事にするから…」
薫が残念そうな表情で言った。
「え?何で?」
小山内はショックの色が隠せない。吟子がニヤニヤして
「清…違うでしょ?」
「え?何が?」
「プロポーズならプロポーズらしく言ってくれなきゃ受け付けない!」
薫がピシャリと言い放った。小山内はなるほどと言うようにポンと手を打った。
「わかったよ…」
そしてそれ以上小山内は何も言わなかった。吟子が立ち上がって
「さ、買い物してこよ!あんた達も一緒に行くかい?」
「うん!」
「うん!」
二人は同時に返事をし、出かける支度をしに二階へと上がって行った。
買い物を終えて三人は帰宅した。吟子は夕飯の支度に取りかかる。小山内と薫は二階に上がり、今日起きた出来事を薫に話していた。
そうなんだ…私…父ちゃんのこと誤解してたのかもしれない…父ちゃんは私達のことなんか対して興味が無いんだと思っていた。全く学校行事には顔を出してくれなかったし、そもそも人付き合いなんて無縁なのだと…冷たい人なんだと思い込んでいた。だけど、吟子さんの話を聞く限り、そして今回の件を清から聞く限り、父ちゃんは本当は凄く温かい人だったんだ…
思い起こしてみると、薫が幼少の頃に高熱を出してぐったりしていた時、真夜中で診療所は全て閉まっていて病院を探し回ってくれたことがあった。そして救急病院でもない病院で必死に粘って交渉を続け、無理矢理診てもらったことがあった。あのときは熱にうなされ朦朧としてあまり覚えていなかったけど、かなり強引に病院の中へ押し入ったようだった。そういう熱い部分があったことを思い出す。
父ちゃんに今度お礼を言いに行こう…そして、お母さんが今はもう恨んでいない…きっと父ちゃんに今でも気持ちがあるって伝えて上げよう…
そう思っていた。その時吟子が下から二人を呼ぶ声が聞こえてきた。
「かおりん~、清~ご飯出来たわよ~!」
「はぁい!」
二人は下に下りて食卓を囲む。先ほど買ってきたオードブル等がズラリと並べられて幸せな一家団欒の食事が始まる。そして小山内の父が帰宅し賑やかな時間が過ぎ、薫は幸せなクリスマスイヴを過ごす。
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