第199話 感謝

事務所を出た一向は、誰一人死者が出なかったことに驚く。暴力団相手に真っ向からド派手に暴れて、佐々木日登美を救出し生きて帰れるなど保証も無しに攻め込んだのだから無理もない。そして今後の報復もしないと約束させた矢崎拳の器の大きさに全員が脱帽していた。


「あのオッサン…正直恐かったぜ…あれがもしヤクザ側だったらあんなに堂々とものも言えなかったかも知れねぇ…」


そう言ったのは天斗だった。


「確かにな…俺も初めてかおりちゃんの親父見たけど…オーラが半端ねえよ…ヤクザの山口って奴がおどおどしてたもんな…」


小山内も目をキラキラさせながら憧れの表情でそう言う。そこへ石田が天斗の元へ近寄ってきた。


「なぁ黒崎…今回の件は…ほんとにありがとな…お陰で佐々木を家に帰してやれるよ…でもあいつ…家庭環境複雑で帰っても幸せってわけじゃ無いんだけど…それでもあのまま生き地獄見るよりはマシだと思うよ。佐々木の代わりに礼を言わせてくれ…」


「別にこっちは重森を助けたかっただけだから礼なんて要らねーよ!ついでだ、ついで」


そして、伝説黒崎も近寄ってきた。


「おい、薫は結局どうしたんだ?」


「そりゃここに居合わせたらあいつ一人で勝手に地獄に堕ちて行こうとするから監禁したよ」


天斗が言った。


「はぁ?あいつを監禁?そんなこと出来るのか?」


伝説黒崎が目を見開いて聞いた。

そこへ小山内が


「俺の母ちゃんがな!俺の母ちゃんはその昔、伝説のレディースと怖れられた女らしい…そしてあの矢崎拳は英雄としておがめられたって言ってた」


「多分それ、あがめられただな…」


伝説黒崎のツッコミに小山内は顔を赤らめた。

安藤も天斗、小山内の元へと近づいて


「なぁ、お前らこの間は悪かったな…そしてそこのバカ…生きててくれて良かった…あの時の言葉は感謝してるよ…」


それは安藤が小山内に向けて言った言葉だった。安藤が意識を失ってるフリをしてたとき、小山内は寛大な心で安藤を許した。それが安藤の善意に深く訴えかけたのだ。安藤は小山内に心から感謝していた。薫の仲間達も天斗の側に来て


「なぁ、姉さんを守ってくれてありがとう…まさか姉さんの親父が現れるとは想定外だったけど…これで俺達も安心して眠れるよ」


「お前らの為じゃねーよ!小山内の将来の嫁を守りたかっただけだ!」


「えええええぇぇぇぇぇ~!!!!!こいつの~~~~~?????」


全員が一斉に声を上げた!薫に結婚相手が見つかるとは誰しもが思っても見なかったのだ。ましてやこの伝説のバカというこの男と…伝説黒崎だけは複雑な思いでそれを聞いていた。


小山内家では薫がくしゃみを連発していた。


「お母さん、やっぱり心配…じっとしてられないよ…」


その時吟子に電話がかかってきた。吟子が携帯を手にし


「あっ!早速報せが来たみたいだよ!」


そして電話に出る。


「もしもし?吟子です~、はい…はい…あらそう~…ありがとう!やっぱり流石は拳さんねぇ~!これで薫も安心するわ、えぇ、えぇ、はい、どうもありがとうございました」


そう言って電話を切った。薫が不思議そうな顔をして


「お母さん…もしかして…」


薫の目には涙が溜まっていた。


「そういうこと!もう全て無事に片付いたって!今後の心配の芽も摘んだから心配要らないって!」


「お母さん!」


薫は立ち上がり吟子の胸に飛び込んだ。

お母さん…ありがとう…父ちゃん…やっぱり父ちゃんって凄い…どんな魔法使ったのか知らないけど…まさかこんな結末迎えるなんて…信じられない…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る