第190話 悪の元凶

数日後、学校帰りの天斗の元へ一人の学生が訪れた。


「ねぇ、キミ黒崎君だろ?ちょっと話があるんだけど…」


天斗は見覚えのない男に警戒心剥き出しで


「何の用?」


「あの、ちょっと頼まれてさ…石田寮って覚えてるかな?」


石田?もしかして…理佳子拉致って俺がブッ倒したやつかな…


「あの下衆野郎のことか?」


「ハハハ…下衆野郎って…確かに君にとってはそうなるかもな…」


「それがどうしたよ!」


「佐々木日登美の件で話がしたい…」


急に真面目な表情で切り出してきた。佐々木日登美…やはり台風の目が動き出したか…


「実は、石田が君達の力を貸して欲しいってお願いだ…」


「あぁ?何都合良いこと言ってんだよ!あいつは理佳子拉致って恐怖のどん底に追い込んだ野郎だろうが!そんな奴に協力するほどお人好しじゃねーよ!」


「そう言ってられるのか?君の仲間の矢崎薫だって危険な目にあいそうだってのに…」


こいつ…けっこう色々情報持ってそうだな…これは上手く利用して逆に力を借りる方向へ持って行けるかも知れない…


「話だけでも聞いてやるよ」


「ありがとう、じゃあちょっと付いてきてよ」


天斗は警戒しながらも、虎穴に入らずんば…とりあえず付いていくことにした。少し歩くと数台のバイクに乗った革ジャンの男達が数名待機していた。


「じゃあそこのバイクのケツ乗って、石田の所に行くから」


天斗は黙って言われた通りにバイクに跨がる。しばらく走って団地の中へと入っていく。そしてその団地の一部屋に通された。玄関を開けるとタバコの煙が部屋中に充満していた。


「よう…久しぶりだな!」


そう言ったのは、憎き石田寮だった。


「てめえ…あのときはよくも理佳子を!」


「まあ、落ち着いてくれ…あん時は悪かったよ…本当に申し訳ないと思ってる…」


「それが謝る態度かよ!」


「てめえ調子に乗るなよ!」


石田の取り巻きが天斗に詰め寄る。


「やめろ!ここでいがみ合っても何の得にもならねぇ!」


石田が仲間に一喝した。


「なぁ黒崎…俺も深く反省してる…この通りだ…」


そう言って石田は深々頭を下げる。


「黒崎…頼むあんたの力を貸して欲しい…筋違いってのは承知だ…だが今回の件はとにかく頭数だけじゃなく戦力が欲しいんだ…」


こいつ…よほど切羽詰まってるな…俺達も相手が相手だけに、こいつらと目的は同じなのかも知れない…


「とりあえずどういうことか聞かせてくれ…」


「ありがとう…実はな…佐々木日登美の件は知ってるよな?あいつと俺はブツ捌くのに組んでたんだが…重森…矢崎薫のお陰で随分と歯車が狂っちまってな…それで俺達の上のモンから締め上げ食らってたんだが…佐々木日登美が飛ぼうとしてよ…それが失敗して今窮地に立たされてんだよ…自業自得って言うかも知れねぇが…あいつもあいつで色々と苦労してんだよ…」


「それで佐々木の救出を手伝えと?」


「あぁ…結局矢崎薫も狙われてるからお互いのメリットにはなると思うんだが…」


「だけどよ…相手は暴力団関係者だろ?そのあとどんな報復あるかわかんねぇだろ?」


「とりあえずこの事件の首謀者をやれば何とかなるとは思ってるんだがな…」


「どういうことだよ?」


「その首謀者も上からせっつかれてるから焦ってんだよ!つまり…悪の元凶はそいつだけってことになる。所詮ヤクザの遣いっぱしりさ…ただ、その男の下が何人居るかはわからねぇ…」


「なるほど…」

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